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- ナノ -
完全復活!だぜ

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「ッはよーゴザイまーすッ!」

ガララララッ!!

やかましい音と共にけたたましく駆け込んで来るヤツと言えば、

「ナルト…」

綱手が漏らしたほとんどため息に近い声を合図に、部屋中に「だよな…」という空気が充満する。

「オレってばもう、完全!復活!果たしたからよッ!もー何でも言ってくれってばよ!」

ニッシッシと笑いながらがっしがっしとがに股で歩いてくる。
退院後たった一日で「完全」なんてあるわけないだろ…と綱手はナルトの大風呂敷にまたため息をついた。

「順番だ、待ってろ」
「へいへーい♪」

ニシシシシ!ニシシシシ!と誰彼となく笑いかけながら一応大人しく列につく。
やかましいなという表情を隠さずナルトを睨む奴も中には居るが、それでも全員に何か活気が満ち、場が明るくなったことに綱手は密かに笑った。

全く…。

かくいう綱手も例外ではない。

ナルトが居なきゃ妙に寂しい。
居て、明るくしてたらなぜかこちらまで楽しい。
困ったやつだとどれだけ顔をしかめてみせても嬉しくてたまらないのだ、みんな。

『本当に…まるで太陽のような…。大きな男になったな…』

綱手は忙しく働きながら心のなかでこっそりと微笑んだ。

「次、うずまきナルト!」
「ッはーい!!」

アカデミーの頃さながらの元気な返事と挙手をして、ナルトは綱手の前に立った。

「今日の任務は…物資輸送の護衛だ」
「護衛?!」

不満そうに片眉をあげたナルトの表情に綱手は笑いをこらえ、厳めしい表情を作った。

「護衛と言うより、農作物の輸送を助けて欲しい」

眉間の皺を深めるナルトへふっと笑い、

「収穫祭がすぐだからな」

そう言うと、ナルトはたちまち顔を輝かせた。

「収穫祭!」
「そうだ、お前が寝くたばってたお陰で準備が滞って大変だったんだぞ」

綱手は地図を数枚手渡した。

「続々と集まってきているせっかくの作物を、傷つけないように美味しいまま運んできておくれ」
「まッかせてくれーッてばよー!」

諸手をあげてはしゃぎながらまた賑やかに出ていくナルトを、綱手はくくく…と笑いながら見送った。

綱手の笑い声だけが聞こえる中、部屋にいた数人がひっそりと「可哀想に…」とナルトに同情した。

「アイツ…あっちこっち飛ばされてるような、大した報酬にならない仕事ばっかり回されてるって、気づいてないのかな…」
「ないんじゃね?基本バカだしな…」

そんなことを囁きあう上忍を、綱手の脇で書類整理を手伝っていたイルカはじろりと睨み付けた。
上忍たちは気づきもせず出ていったが、まだ笑っていた綱手が、イルカの肩を叩いた。

「言わせておけ」
「火影さま…」
「ま、気づきゃしないのがアイツのいいとこではあるが、」

と、またくくく、と笑う。
渋い顔になってしまったイルカへ、綱手は凄みのある美しい笑顔を向けた。

「忍びはともかく、一般人の中には『英雄ナルト』を見たこともないやつが居るだろうからね」

イルカは、綱手の笑顔と言葉に息を飲んだ。

『本気だ…』

イルカはぞくり…と密かに身を震わせた。
ナルトを辺境へばかり送り込み一般人と接触させているとは、この美貌の里長は、

『本気で…ナルトを…火影に育てるおつもりなんだ…!』

「次!」

すぐにいつものような気だるげな様子に戻った綱手をしばし茫然と見詰めていたイルカは、すぐに気持ちを切り替えると、また仕事に戻った。

綱手さまはナルトを火影に育てるおつもりだ…

わくわくとした気持ちが後から後から沸き起こるのを懸命に堪えながら。


--------------

「だーっ!もォ!重ってェな!」
「も、申し訳ありません…」
「あんだよ、忍びのにーちゃんよ、文句多すぎやしねーか?!俺達なんかよりゃ体力あるくせによー!」
「んなこと言ったって、こりゃいくらなんでも…ギリギリだってばよー!」

コケ…コケ…と羽根を散らかしながら走り回る鶏に時おりまとわりつかれながら、ナルトは大量の玉子を一人で担いでいた。

「割れたら商売になんねーんだからよー、頼むよー」

雇い主の男は、痩せ痩けた小さなロバに身重の妻を乗せ、付きそいながら後ろをのんびりと歩いてくる。

「ま・か・せ・ろ、ってばよ!」

ふんぬ!とナルトも踏ん張る。

「本当に…申し訳ありません…」

妻がしきりと恐縮する。

「んな、遠慮しないでくれってばよ」

ナルトは明るい顔で振り返った。

「木の葉病院はさ、腕のいい医療忍者が揃ってっからさ、ねーちゃんは無事に丈夫な子を生むことだけ考えててくれってばよ!」

ニカ!という笑顔に、夫もついつられて笑ってしまった。

「…済まねぇな…あんた、有名な忍びなんだろ…こんなちっぽけな依頼をあんたみたいな忍びがさ…」
「それにしても!たッくさんの玉子だよな!」

ナルトの笑顔に呑まれて男が一転ぼそぼそと謝るのを遮るようにナルトが大声をあげた。

「これでどんだけの玉子焼きが出来んのかな?!」

ニシシ!と笑うので、夫婦もまた吹き出してしまう。

「…あんたが望むならいくらでも!」
「この人、鶏を育てることだけじゃなくて、玉子焼きも上手なんですよ」
「マジか?!」

ナルトが子供のようにはしゃぐので二人は益々笑顔になる。

「収穫祭まで木の葉に居ることになりそうだから、当日は玉子焼きを作らせて貰おうかな」
「やったーァ!楽しみだってばよー!」

ナルトが担いでいた荷物を掲げたので、

「おいおい!頼むよ!割るんじゃねぇよ!」

男はまた荒っぽい口調に戻る。

「いっけね…タハハ!」

首をすくめたナルトと夫婦が顔を見合わせて笑う。

「さ!もうすぐだから!着いたらすぐに宿?病院?それとも市場か?」
「そうだな…どうしようか…」
「んーじゃあ!」

ナルトは素早く印を切って影分身を二体出した。

「オレとにーちゃんはこのまま市場、一体はねーちゃんと病院だ。もう一体は宿へ荷物を届けておくぜ」

ニヤリと笑うナルトに、夫婦は感謝の笑みを向けたのだった。

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