ナルト、目覚める
***********
「覗いたけど寝てたわ。窓開けてきたからよろしくね〜」
いのからの報告を受けて、サクラはナルトの病室に向かった。そう言えば、昨日はどうだったのだろう…昨日の報告を受けていなかった。いのが言わなかったのなら昨日来たのはヒナタだけだったのだろうか?
昨日は久しぶりにナルトと会話が出来た。でも二人のどちらかは知らないけれど、あっちはナルトの寝顔を見ただけだったのかもしれない。
自分でも足取りがやや弾んでいるのがわかる。
患者が回復してくるのは嬉しいものだ。戦場や現場と違い、病院だと完治に立ち会えることも多い。
本当はそれだけじゃないのだろうけど…
サクラはふふふ、と笑いながらナルトの病室の戸を開けた。
が、予想に反してナルトは、布団をきっちり被って寝息をたてていた。拍子抜けしてしまってちょっぴりムッとしたサクラが、『何よ!デコピンでもお見舞いしてやろうかしら!』とベッドに近寄ると、
ねてたらおこして!
のどのくすり、ぬってくれ って ばよ
すぐそばの窓辺に、書きなぐったメモと薬瓶が置いてあるのを見つけた。
「メモに…『ってばよ』を書く意味ってあるのかしら…」
呆れ顔でそう呟くと、
「起きなさーい!ナルトー!ご希望通り薬塗るわよ!起きなさーい!」
肩を揺すって起こした。
「あ…サクラちゃ…」
「薬塗るわよ!口開けて!」
寝ぼけているナルトにわざと畳み掛けたのだが、ナルトは大人しく大口を開けた。
無言のまま塗り終えて、さぁひとこと言ってやんなきゃ!と腰に手を当てたのだが、
口を閉じるや、ナルトは再び眠りこけてしまった。
「………」
またもや肩透かしを食らって、さすがに動けなくなってしまう。
「あ!アンタご飯は?!」
我に返ったがもう遅い。
また叩き起こしたところで、まともに会話出来るほど目覚めさせるのは骨が折れそうだったし、眠れるのであれば寝かせておくのも回復の一助になる。
「今日のところは………こ…このまま…寝かせておく…か…」
サクラは唸ると、がっかりしたようにずるずると足取りを重くして部屋を後にした。
仕事が一段落し、ふと顔をあげるともうだいぶ日が傾いていて、サクラはほっと息を吐いた。
「あ!窓!」
昼前にナルトの病室に行ったとき、いのに言われていたのに窓を閉めてこなかったことを思い出したサクラは慌てて駆け出した。
また寝ているといけない、となるべく音をたてないように戸を開けたのに、
「あ…お疲れさま…」
中にはすでにヒナタがいた。
「あ、あら…ヒナタ…」
サクラはなんとなく決まりが悪くなって、乱れた髪と白衣の裾を慌てて整えた。
「外から…窓が開いてるのが…見えたから…」
「そうなんだ…ありがと」
静かに微笑むヒナタに反して、慌てている自分がなんだか恥ずかしくなる。
サクラがヒナタから目をそらしてしきりに髪を耳にかけていると、ヒナタは花瓶をそっと持ち上げ、
「水を変えてくるね…」
また微笑んで出ていった。
ヒナタを見送ってから、サクラはベッドに近寄った。
寝返りをうったのか体勢は違っていたが、ナルトはやはりぐっすりと眠っている。
『ずっと眠りっぱなしで…お腹空かないのかしら…』
ナルトの寝顔を眺める。
これだけ熟睡していれば、目覚めたときにかなり空腹になっているはずだ。
『喉の具合を見て…お粥のような…もう点滴でなく食べ物のほうがいいかもね…』
色々考えていると、こと…と音がした。
顔をあげるとヒナタがもう戻っていて花瓶を置いたところだった。驚いて目を丸くしていたサクラにヒナタはにこりと笑いかけると、
「それじゃあ私…もう行くね…あとはよろしくお願いします…」
会釈がわりにゆっくりと一度目を伏せると、さらりと部屋を出て行った。
ヒナタから残像のような、残り香のようなものがたなびいたような気がして、サクラはしばし見えなくなったその後ろ姿を見送るかのようにぼんやりと立ち尽くしていた。
「サ…クラ…ちゃ…」
「?!ナルト?」
ナルトの声で我に返る。
振り返ると、
「腹…減っ…た…」
ナルトはまだ眠そうな目で笑おうとしていた。
ふ、と笑ってから、サクラは毅然と顔をあげ、
「喉を看せて、ナルト。ご飯か点滴かはそれからよ」
ナルトに口を開けるよう促した。
[ 24/58 ][前] [次]
[top]