ナルトといの
点滴を回収したサクラの足音が遠ざかっていくのを聞きながら、ナルトはようやく目を開けた。
同じ階から去ったと判断してから、ふ、とひとつ息を吐き、肘をついて身体を起こす。
夕べ真夜中に苦労して築いた寄りかかるための山は、先ほどサクラによって潰されてすっかり平らにされてしまっていた。
あのままでは熟睡出来ないだろうとの配慮からだとわかっているので責める気にはならないが、もう一度作る気はさすがに湧いて来ず、掛け布団を丸めると覆い被さるようにして寄りかかった。
ようやく…回復したいという意思が沸いたのに、気力と体力がやはりついてこないらしい。
ナルトは引いていた顎をあげると布団に乗せ、ぶつぶつとこれからのトレーニングのメニューを考え始めた。
時おり指を折ったりしながら思案しているナルトの耳に微かな足音が聞こえて来た。
細く響くリズミカルなあの足音はいのだろう。
ナルトはぼんやりとそう思いながらトレーニング・メニューを練り続けた。
「…アラ」
音もなく戸を開けたいのが静かに声をあげた。
ナルトはそちらへは向かず、片手をあげて応える。
「起きてていいの?」
そっと駆け寄るいのに僅かに頷くだけのナルトを見て、いのはキョロキョロと見回した後、見舞い客用のパイプ椅子に置かれたストールを取り上げると、寝巻きだけで何も羽織っていないナルトの肩に静かに掛けた。
それからそっと花瓶を取り上げると、水を替えるために部屋を出た。
花瓶の水を替えて花や葉を整えてから部屋に戻ると、ナルトはやはりぶつぶつと思案したままだった。
いのはナルトの口から時おり漏れる「腹筋は…」「走り込みを…」などの言葉を耳にして、くす…と密かに笑いながら花瓶を置くと、病室を後にした。
「やっと立ち上がる気になったか…」
小さく呟く。
「一番喜ぶヤツに報告しに行かなくっちゃ、ね♪」
いのは足取りを更に軽くした。夕方の仕事終わりに行けばチョウジも里に戻ってきているはずだ。
差し入れは何にしよう…
いのはあれこれ思い浮かべながら調査部の方向へと踵を返した。
「へぶしッッッ!!」
自分のくしゃみで目を冷ましたナルトは、そのままの姿勢でぶるり!と身体を震わせた。
口を開けて寝ていたらしい、喉の痛みが増している。ナルトはよだれを拭きながら辺りを見回した。
「…!」
茜に染まる部屋に、そういえばしばらく夕焼けを見ていなかったことを思い出した。
ヒナタと、森を出るときに手を繋ぎながら見た空。
チョウジの家へコロッケを届けた帰り、嬉しそうに思い出し笑いをして去っていったヒナタの背を染めていた光。
ナルトはぼんやりとした眼差しのまま、サクラが置いていった喉の塗り薬の瓶へ手を伸ばした。
蓋を開けて自分で勝手に喉に塗ろうとして動きを止める。
闇雲に突っ込んで大丈夫だろうか…一瞬迷うが、えい!と差し込み、案の定むせてのたうち回った。
「えほ!えほッ!ゥげェーっほ!」
薬をこぼさないようにと素早く瓶を置いて、気のすむまで転げ回って喉をさすり、さすがに自分のアホさ加減に顔をしかめる。
『なにやってんだってばよ…オレってば…』
しかめ面のまま鏡はないかと見回すが、この部屋にはどこにもないし、鏡の代わりになりそうなものもない。
お手洗いに行けばよいのだろうけど…
先ほどでだいぶ体力を消耗してしまったようで、ナルトはまた丸めた掛け布団に寄りかかった。
ベッドの手すりは丸くて上手く映らないだろう。ナルトはふと窓枠はどうだろうかと思ってカーテンを捲った。
『窓枠には…映んねェかな…』
鏡代わりに顔を映すくらいなら出来るだろう。問題は、喉の奥まで見えるかどうかだ。日が傾き始めたこの時間のこの光量で、果たして見えるだろうか…。
ナルトが、窓辺に膝をかけ大きく口を開けながら窓枠に顔を近づけようと身を乗り出したところで、
「な…何をしてるの?!ナルトくん!」
ヒナタの細い声が響いた。
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