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テーマ「推しとの恋」
- ナノ -
サクラとナルト

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今日は一日予定がびっしりと入っていて忙しい。朝しか時間が取れないと判断したサクラは、きびきびとした足取りでナルトの病室へ向かう。
遅くとも昼過ぎには、いのかヒナタが一度様子を見に来てくれるはずだ。その前に一度診察をしておくべきだと考えた。

入院したばかりの頃はあまり眠れていないようだったナルトも、この二、三日は眠りが多少深まっているのか寝顔しか見ていない。

『そう言えば…どのくらい喋ってないんだろ…アイツと…』

どんな時でも痩せ我慢してでも笑っていたナルトの笑顔が脳裏に浮かんできて、サクラは胸をつまらせた。
病室に着くと戸の前で一度そんな思いを振り払うように首を振って、サクラはそうっと戸を開けた。

いつものように眠っているナルトの邪魔にならないように…と、そっと足を踏み出して何気なく顔をあげたサクラは、驚いてその場で固まってしまった。

「よ…」

自分で整えたのだろうか、枕を高く起こして作った背もたれに寄りかかったナルトが、掠れた声で言いながらサクラに向かってわずかに手を挙げた。
笑いながら唾液を飲み込もうとしてしまったらしい、たちまち痛そうに顔を歪めた。サクラは慌てて駆け寄ると、

「ちょうど良かった、喉の薬塗るわね。口を開けて」

と薬を取り出して構えた。

あん…と大きく口を開けたナルトの喉の奥へ黙ったまま薬を塗っていたサクラが、しばらくして小刻みに肩を震わせた。

「ほんとにもう…!心配したんだから!」

塗り終えた薬瓶を握りしめ、顔を歪ませて叫んだサクラの顔を、少し驚いたようにじっと眺めていたナルトは、やがてゆっくりと微笑み、

「ありがと…」

と呟いた。いつもと違って歯を見せていない弱々しい笑顔に、サクラは更に涙をこぼしてしまう。

「…泣かない…で…よ…サクラちゃ…」
「バカ!あんまり喋らないのよ!薬塗ったばかりなんだから!」

嬉しいのに、素直にそう言えなくてついいつものように強く言ってしまう。
だけどナルトはそれをちゃんとわかってくれていて、更に微笑み返してくれるのだ。
安堵と自己嫌悪の入り雑じった涙を拭うサクラをじっと見ていたナルトは、

「ありがと…」

と、またお礼を言った。

「バカ…ほんっとアンタったらバカなんだから!」
「うん…」

へへ…と穏やかに笑うナルトへも悪態ばかりつく自分が、サクラは少し嫌になる。けれど、ナルトは穏やかにそしてとても嬉しそうに、ニシシ…とようやく歯を見せて笑い、

「も…いい加減…回復しねェと…筋肉が…さ…」

まだ痛いだろうに懸命に喋ろうとする。

「そうね…」

最後の涙をぐい、と拭ったサクラは、

「確かに、そろそろトレーニング開始しないと、アンタお腹回り大変なことになりかけてるわよ」

いつものように顎をそらして勝ち気に告げた。

「うそ…マジか…」

いつものように「えええええー!」とは騒げないがそれでも可能な限りいつもみたいに驚いて、それからしょんぼりしてみせるナルトに、サクラはふふふ、と笑った。

「ご飯、食べれそう?」
「う…んと…」

目をぐるりと廻らせて悩むナルトへ、

「それじゃあ点滴にしとこうか。食べられそうなら用意するから言ってね」

そっと優しく告げた。

「回復する気なら、ちゃんと食べなきゃなんだからね!」

小さくガッツポーズをして明るく笑うと、

「…用意してくる」

また目元を拭いながら部屋を後にした。

『良かった…ほんとに良かった…』

後ろ手で戸を閉めると、サクラは口元と胸元を押さえて涙を堪えた。
自分がナルトをこんなにも心配していたことに改めて驚きながらも呼吸をひとつして気丈に顔をあげると、てきぱきと点滴の用具を揃え、また足早にナルトの病室へと向かう。

しかし。

点滴の準備をしている間中ナルトは黙ったままだった。何か考え事をしているのか、ほんやりと視線を落としたままサクラを見ようともしない。
喉のことを考えると確かに喋らないほうがいいのだが、サクラはかつて見たことのないナルトの様子に、何気ない風を装いながら懸命に動揺を押し隠した。

どんなに辛くても、顔をあげて笑っていたナルト。
どんなに辛くても、自分の顔を見れば嬉しそうにしていたナルト。

そのナルトが…。

「あ、薬…喉の…塗ろっ…」

自分の声に全く反応を返さないナルトにサクラはついに絶句してしまった。

こんなことって…

さぁっと血の気が引くのと同時に体温が下がっていくのを感じた刹那、
ふ、とナルトが顔をあげた。

「あ…悪りィ…」

先ほどと同じの、いつものしっかりとした眼差しがたちまち曇る。自分がショックを受けたような顔をしているからだと知って、サクラは顔を歪ませたまま安堵した。

「なんか……ねみィ……だ…ごめ…な…」

ナルトの眉間のしわがどんどん済まなさそうに深くなってゆく。
反対にどんどん安心していったサクラは、ゆっくりと口角をあげて微笑んだ。

「しょうがないわね!」

腰に手を当てて小首を傾げる。
サクラが笑ってくれたから、ナルトもたちまち嬉しそうな顔になって笑う。

「眠いんなら寝なさい。点滴したからしばらく空腹にはなんないでしょ」

掛け布団を引き上げてナルトの肩にかけてやる。
大人しく自分を見詰めているナルトの穏やかな視線をいつもよりもずっとくすぐったく感じながら、サクラは最後に肩を優しくぽんぽん、と叩くと、

「お休み…」

首を傾げてナルトの顔を覗き込んで囁いた。

「ん…お休み…」

ナルトも穏やかな微笑みながらそう返すと、正面を向いて目を閉じた。

それを見届けてから、サクラはそっと病室を後にした。

胸に…暖かな気持ちをそっと抱えながら。


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