サクラとヒナタ
「いくら寒くなってきたとは言え、空気の入れ換えくらいはすべきなんじゃないの?」
いのが小声でサクラをなじった。サクラも小声で、「開けても閉めに来れるとは限らないのよ」と返す。
「そんなのくらい私たちがやるんだから…明日も来ていいわよね?ね?」
ずい、とにじり寄ってサクラに承諾させた。
「わぁ…気持ちいいね…」
花瓶を抱えたヒナタが部屋に入って歌うように言った。
「ナルトくんもきっと喜ぶね」
元の位置に花瓶を置きながら二人を見てにこっと微笑むヒナタへ、いのは微笑み返し、サクラは複雑な表情を返した。
ヒナタはそれに構わず活けられた花をちょっと整えた後、ナルトの寝顔をそっと眺めて、ほんわりと控え目に微笑んだ。
「じゃ…行こうか…いのちゃん」
「そうね」
いのはサクラから離れると枕元へ寄ってやはりナルトの寝顔を見て、
「じゃあね」
サクラに手をあげてから戸口に向かった。
ヒナタはサクラへゆったりと浅く頭を下げ、
「わがままを聞いてくれてありがとう、サクラさん」
きちんと挨拶をすると、いのの後を追い、二人は一緒に部屋を出ていった。
一度大きく開けて空気を入れ替えた後、細くだけ開けた窓から風がゆらゆらと入って来て、白いカーテンを揺らしている。
水を入れ換える前とは全く違う表情になった花を見て、サクラは眉間に皺を寄せた。
「違うのはわかるんだけど…どこをどうしたからなのか…やっぱりわからないのよね…」
サクラは腕を組んで唸った。
生け花に確かセオリーがあったはず。ならば自分にも全く無理ではないはずなのだが。
『どんな花でもどんな組み合わせででも自在に活けられるようになるには、きっと時間と経験の積み重ねが要るんだわ』
目の前に活けられた花々は、全部前を向いているわけではない。てんでの方向を向いているようにしか見えないのだが、全体は調和している。
サクラは肩を竦めた。
つくづく…自分とヒナタは正反対なのだと思う。
得意な分野や気づくものが違う、と以前から感じていた。サクラには「大して重要ではない」と思われることを丁寧に拾い上げ、「そこは声を出して言うべき」と思われることを一向に口にしないように思えた。
ナルトのどこが好きなのか…
聞いたことがあったような気もするのだが、思い出せないということは、何度聞いても自分にはピンと来ないからなのかもしれない。
『ヒナタには…私には見えていないナルトが…見えている…?』
ぼんやりとそう考えてから、サクラはきっぱりと頭を振った。
そんなはずはない。
でも…
そうなのかもしれない…
サクラはベッドにそっと歩みより、ナルトの寝顔を覗き込んだ。
よく寝ている、と思う。
だが、ヒナタは何を感じて、あのように微笑んだのだろうか。
『ナルト…アンタは今…どんな夢を見てるの?』
サクラはナルトの頬をつつこうとして止めた。
くっ、と顔を上げると窓をきっちりと閉めて、そして病室を後にした。
今日もまだまだ忙しかった。
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