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面会謝絶?!

「…だいぶ楽になってると思うわよ」

目の前に花を差し出されたと思った。
仕事中はひとつに束ねているのに、うつ向いていたせいか、耳の前に垂らした短い花色の髪が、ぱさり、と動いたのらしい。
ナルトは懸命に微笑もうとしたが、サクラはにこりと笑うとすぐに仕事中の顔に戻り治療を続けた。
ナルトは安心して目を閉じた。

サクラちゃんが笑ってくれた…。

ぼんやりと布団が掛けられる気配を感じ、サクラが治療を終えて部屋を去ってゆくの気配をひっそりと追いながら、ナルトの意識はまた薄れていった。


*******************

「そんなにひどいの?!」

いのが声を荒げたので、サクラは驚いて怯んだ。

「いや…あの…でも、あんまり起きてないわよ…ほとんど寝てて…」

まさかいのが怒ると思っていなかったのでしどろもどろになる。

「面会謝絶ってのは、感染の恐れがあるとかそーゆー場合だけなんじゃねーのかよ?」

シカマルが怪訝そうな顔をするのはいつものことなのだが今日は違うように感じてしまい、サクラは更に萎縮した。

「寝てるんなら寝てるで、寝顔だけでも見れたら、嬉しいし安心するんだけど…」

済まなさそうに気を遣いながらではあるがチョウジまでそういうものだから、サクラはたまらず目をむいた。

「あのね!」

それへ、ビリ!とキバが反応した瞬間、

「ナルトくんが少しずつでも回復しているならいいの」

ヒナタの細い声が響いた。

普段は何を言っていてもほとんど聞こえないのに、こういうときは妙に響くのね…と、サクラは驚いたが、

「謝絶、って言葉にみんな驚いただけだよ。安静を邪魔しないでね、って意味だったんだね」

どうやら自分を庇ってくれたらしいとようやく悟り、サクラはほっと息をついた。

「ずっとうとうとしてるって言うか、熟睡できるほどはまだ回復してないのよ。皆が来てくれたらそりゃ喜ぶとは思うけど、結局ナルトが休めないでしょ?」

腰に手を当てて説明する。そう、始めから説明させてくれればいいのに、なぜ噛みつかれなければならないのか。サクラは眉間に皺を寄せた。

「それならそーで…」

キバが皆でと出しあったお見舞いの花束を担いで行こうとしたので、

「部屋へ行ってはいけないんならサクラさんの手間になるだけだよ、忙しいのにご迷惑だよ」

キバの腕に手を当てて制止し、

「サクラさん…キバくんにはこう言っておいて…本当に申し訳ないんだけど…これは皆で買ったものだから…この花束だけはナルトくんの病室に飾ってもらうこと…お願いしてもいいかな…?面会出来るようになるまでお見舞いは…お伺いもプレゼントも控えるようにするから…お願いします…」

サクラを見ながらおずおずと申し出た。

「ん…わかった。ありがとう」

サクラが手を差し出したので、キバは渋々サクラへと手渡した。

「じゃ、行くか」

シカマルの号令で皆がぞろぞろと動き出した。

「何かあったら知らせてくれよ」
「分かってるわよ」

花束を抱えたまま皆を見送りながら、ふと、サクラは

『シカマルはともかく、なんでヒナタが仕切んのよ…』

ほんの少しの苛立ちが湧いた。が、

「…心得たものね…」

通りがかっていたシズネがちらりと花束を見て呟いた。

「…何をですか?」

サクラが問うと、シズネはゆっくりと微笑みながら、感心したように頷く。

「お見舞いの作法よ。さすがヒナタさんよね。」
「はぁ…ですね…」

サクラは曖昧に相づちを打って、そのまま去るシズネを見送った。

『さすがヒナタさんよね。』

「さすが…?」

サクラには何が「さすが」なのか見当もつかなかった。そういえば、ヒナタとはいのほど親しくない。

親しくなりようがない…

と思ってきた。

ナルトを挟んだ関係である以上。

そして。ヒナタが家族に愛されずに育ったらしいと知った以上。

自分とはあまりにも違い過ぎるヒナタとは、正直今でもどう接していいのかよくわからないのだ。

サクラは目を伏せてふっと笑うと、気分を変えるように首を振り、踵を返してナルトの病室へと向かった。

******************

目を開けたナルトは、そのまま部屋の明るさに馴れるまでぼんやりとしていた。
昼間なのだろうか、窓からは光が差し込んでいるが、白いカーテンがかかったままなので外の明るさがどのくらいなのか判断しづらかった。

このままじっとしていたら咳も出ない。
だが、退屈なのと、あれ以来誰の顔も見れないのが淋しかった。
サクラは回診に来てくれているだけでお見舞いではない。

『なんで…誰も見舞いに来てくんねェのかな…』

心細くなって涙が一筋溢れた。


オレがわるいこダカラカナ…


ごしごしと目を擦ると、人がやって来る気配がした。

サクラのようだ。

ナルトはさっと布団を被って寝たふりをした。
今はサクラの顔を見たくなかった。

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