ナルト、入院
ぼんやりしていく意識の向こうで、シカマルといのが「またね」と言ったのが聞こえた気がした。
最後まで本当に謝らなかったいのは、それでも悪かったと思っている気持ちが全身から溢れていて、もうそれで充分だと思ったし、シカマルとチョウジが彼女を何かと庇ったり頼りにしたりするのが何となくわかる気がした。
サクラは…
サクラちゃんは…どうだっただろうか…
沈んでいくような感覚の中、ナルトはぼんやりと考える。
サクラから謝られた記憶はほとんどない。
軽口のような謝罪はあったがあくまで文脈的な「ごめん」程度で謝罪と呼べるほどのものではなく、
たとえ早とちりや誤解から殴ってしまってそれでナルトが怪我をしたとしても、「常日頃、殴られても仕方がないようなことをよくしているからよ!」と、つん!としたきりで済まなさそうな顔すらされたことがない。
ただ、それでも殴られて負った怪我を手当てをしてくれるのは当のサクラだったし、それでいいと思っていた。
サクラからの手当ては、とても嬉しかった。
だから、いのの態度に驚いた。
そんなに悪いと思うのなら謝ればいいじゃないか…と不思議でならなかった。
「間違ったことは言ってない」
いのの言い分は当然だった。
ナルトも自分が悪いと感じていた。謝る必要などない。
それなのに、いのはその足でシカマルを訪ねたのだ。
なぜ………?
いのは何に「済まない」と思ったのだろうか…。
意識がどんどん沈んで、反対に思考がそこから浅くなって遠く遠くなってゆく。
背を向けたいのと、椅子から身を乗り出して自分に言い聞かせてくれているシカマルの姿が、ぼんやりと遠退いてゆく。
代わりに浮かんで来たのはあの晩の、あの眼差しをしたヒナタ。
「〜〜〜〜〜〜。」
虚ろな眼で何と言ったか、言葉は明瞭に聞こえて来ない。
「〜〜〜〜〜〜。」
『ヒナタ…!』
ナルトはたまらず懸命にヒナタに向かって手を伸ばした。
その手を…
どうするつもりなのか。
肩を掴むのか、手を握るのか、頭を撫でてやるのか、自分でもわからない。
ヒナタに触れるな!
いのによく似たような声が警告する。
「どうともする気がないのなら」
そうだ、もう触れてはいけない。
いけない
いけない…
イケナイ…ノダ…
「ヒナ…タ…」
ぴくり…と指先を動かすだけしか出来なかったナルトの眼から、一筋だけ涙が溢れ、
そのまま、ナルトの微かな吐息だけが病室に充ちていった。
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