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- ナノ -
ナルト、入院

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「鬼の撹乱、青天の霹靂、」
「確かにね…」
「後は…寝耳に水?」
「ソレはちょっと違…!!じゃない!サイ!」

点滴を準備で上の空だったところを我に返ったサクラに怒鳴り付けられて、サイは大袈裟に飛び退いて見せた。もちろんいつもの、整いすぎた笑顔を崩さぬまま。

「邪魔しかしないってんなら出てって頂戴っ!」
「ん〜でも〜サクラはいいの?それで」

わざとらしく首をかしげて聞くのを、サクラは怪訝な顔で睨み付けた。

「風邪を引いているとはいえナルトと二人きりになんてなったら襲われやしな…ああ!そうか!」

閃いた!というようにサイが声のトーンを変えたので、サクラはますます眉間の皺を深めた。
サイはそれに構わずいそいそとスケッチブックを開くと筆を構える。

「僕は構わないから、気にせずイチャイチャしてくれていいよ。あ、ほんとに気にせず。なんなら二人でほら…はじめてくれても…交尾?じゃないな…セック…」
「っっっ!しゃー!!んなろーっ!!」

みなまで言わせずサクラがサイへ思い切り拳をふるう。サイは紙一重でそれをよけながらにやりと笑うと、拳を受けて吹き飛ばされた態でそのまま病室の窓から飛び去って行った。

「なななな!なんてこと言うのよーっ!!」

ゼェゼェと息を切らせたサクラの頬がほんのり赤くなっている。

「サ…クラちゃ…ん…」

苦しそうな息の下ナルトが呟いたのを、サクラは照れ隠しに、ぎっ!と睨み付けながら振り向き、

「だいたいね!アンタがね!珍しく風邪なんか引くからね!」
「おーこわー。おちおち風邪も引けねーのかよ、七班はよ」

突然のキバの声にサクラは飛び上がった。

振り向くと、お見舞いに来た同期たちの先頭に居てドアから入ろうをしていたところらしい、その後ろで押すな押すなの声ががやがやと聞こえている。

「なによ急にっ!びっくりするじゃないっ!」

サクラは顔を真っ赤にして叫んだ。キバは呆れたという様子を隠さぬまま病室に入ってくる。後ろにはチョウジ、シノ、ヒナタ、いのと続いていた。

「大丈夫?」

心配そうなチョウジの問いへ、ベッドに沈みこむように横たわるナルトが、本当に酷い顔色をして息も苦しそうなのだが、懸命に微笑もうとする。

「…無理すんな…」

キバが手にしていた花束をばさり、とナルトのお腹の辺りへ置いた。
シノが皆からの見舞いの品をサクラに手渡し、ヒナタがそぅっと花瓶を手にしたところへ、

「悪い、遅くなった」

そこへシカマルが入ってきた。複雑な表情で微妙に皆の一番後ろにいるいのの肩にそっと触れてからベッドへ歩み寄る。

「もう11月も近いし、夜はどんどん寒くなってくってのに、なに油断してんだよ?」
「へ…へ…」

力なく笑うナルトを呆れたように見下ろしていたが、すぐに花束を取り上げていのに活けてくるよう促した。いのは無言のまま花束を受けとると、花瓶を抱えたヒナタと一緒に病室を出ていった。

「で?酷いのか?」

シカマルがサクラに聞く。サクラは一瞬迷ったようにナルトを見たが、

「風邪自体はそんなに」

と、手短に言った。

「ただ、ナルトが風邪引くのが初めてで大変だろうからってのと、一人暮らしだから自分の部屋に居るより入院させたほうが何かかと安心だからってことなだけ…よ」

何やら歯切れが悪いのが気になるが、そっぽを向いてボソボソと言うサクラの様子に、シカマルはなんだかんだと言いながらサクラもナルトを相当心配をしているのだと理解した。

「声が出にくいみたいだな」
「喉がかなり腫れてる」

細かく病状を聞くシカマルをよそに、枕元へ立ったキバが延々とナルトをからかう。

「死にそー!ってくれぇ辛いかもしんねーけど大丈夫だぜ?すぐに治るからさ、絶対に。ま、風邪で死ぬヤツもたまにいるけどよ」

だの、

「喉が腫れるとさー、飯食えねぇし、美味くねぇんだよなー、腹減るのによー、治りも遅くなるしさー、んでどんどん食べれなくなんだよなー」

だの次々言うのへ、身動きもしゃべることもできないナルトは精一杯の抗議の意味を込めて懸命に睨み付けているのだが、キバの口撃は一向に止まない。

「もうやめなよ」

チョウジが止めたが耳を貸さない。とうとうシノが、

「いい加減にすべきだ。何故なら…」

といつものフレーズを出してきたが、いつものごとく無視されると思いきや、続けて

「戻って来たヒナタがさっきからずっと涙目になっている」

静かに告げたとたん、やっと大人しくなった。さすがのキバも女子に泣かれるのは嫌なのらしい。ヒナタの後ろに隠れるようして立っていたいのが、くす…と小さく笑った。

「ボク…もう行かなきゃなんだ…お大事に、ナルト」

チョウジが申し訳なさそうにナルトに挨拶をして出ようとすると、

「お、オレらもだ。じゃあな、またな」

キバが先導してシノとヒナタが会釈をしてそれに続く。
振り返ったヒナタの目が本当に心配していると告げているのを悟ったナルトは、会わせる顔がなくてぐじゃぐじゃに顔を歪ませた。それを、病気の辛さからだと解釈したのか、ヒナタは唇を引き結んで『大丈夫、きっと治るから!』というように頷いてみせてから二人に追いつくように出ていった。

そのままナルトが涙を流すのを、いのだけがぼんやりと見ていたが、

「急患なんです!サクラさん、お願いしますっ!」
「わかった、すぐ行く」

シカマルとの話の最中だったサクラも慌ただしく去り、病室にはナルトといのとシカマルの三人だけとなった。

急に静まりかえる病室。

顔を歪ませ静かに泣き続けるナルトを、ベッドから離れた位置に立ったまま見ていたいのに、

「いの…」

シカマルが声をかけたが、

「謝らないから」

いのは声を震わせながら、しかしきっぱりと言い切った。

「間違ったこと、あたし言ってない」

ふぅ…と大袈裟にため息をついたシカマルは、ナルトの枕元にパイプ椅子を持ってくると、ぎしり、と音をたてて腰かけた。

「間違ってるとかいないとか、んな話じゃねーだろ」

ギロリ、と睨んでからナルトへ向き、

「夕べ何があったかは、聞いてる」

と告げた。ナルトは驚いて何回かまばたきをした。

「悪いと思ったからその足でオレに教えに来たんだろーが」

ナルトに向いたまま目だけ向けていのに言う。

「言い過ぎたっつー自覚はあるんだ、そこは勘弁してやってくれ」
「シカマル!」
「ナルトが、入院しなきゃなんねーほどの風邪を引いたのは事実だろうが!」

二人のやり取りに、ナルトは頬を緩ませた。

「わか…って…っから…」
「ナルト…」
「悪りィのは…オレ…だ…っ…」

そこまで言って咳き込んだナルトへ、素早く水の入ったコップを差し出したのはいのだった。シカマルがにやりと笑いかけてからナルトを助け起こす。

ナルトが水を飲み干し、また横になるまでシカマルもいのも黙っていたが、ナルトがベッドにおさまると、シカマルは表情を引き締めた。

「いいか、よく聞け、ナルト」

幼子へ言って聞かせるかのように、はっきりと喋る。

「お前は弱ってる。今まで引いたことのなかった風邪を引いたのはそのせいだ。神経だけじゃねぇ、体力的にも、けっこう参ってるらしい」

ナルトは驚いて目を見開いた。

「このことはお前を診察した綱手さまとその時そばにいたシズネさんと、聞きに行ったオレの他は、お前とここにいるいのしか知らない」

いのの手がゆっくりと自分の口元に当てられた。

「…恐らくサクラは勘づいてると思うが、他の連中は知らない。だからな、ナルト」

シカマルは、やれやれといった表情になって腰に手を当てて首をかしげた。

「大事をとってという名目で、しばらくここに入院だ。ゆっくり休んで、上げ膳据え膳を楽しむんだな」

ナルトがきょときょとと目を動かすのを見て、シカマルはさらに首をかしげたが、

「黙っててもご飯が出てくるってことよ…ご飯の用意も片付けも誰かがやってくれるって意味よ」

シカマルの向こうから、ぷい、とそっぽを向きながらいのが教えてくれたので、ナルトは目を輝かせた。

「ああ…小難しーい単語使って悪かったな」

にやりと笑いかけたのへ、ナルトも精一杯睨んで反撃した。


ナルトがまどろみかけた頃を見計らい、シカマルといのは病室を出た。
廊下へ出てきっちりと戸を閉めると、

「ナルト…相当悪いの…?」

いのが声を潜めて聞いた。

「んー…」

シカマルは頭をばりばりと掻いていたが、

「悪い、というより、弱ってるらしい。危険ではないけど油断は出来ないって状態かな」

いのを見てふっと笑った。

「抵抗力が弱ってるときは回復させるのが最優先だからな」

ぽん、と肩を叩くと、

「暇を見つけて通ってやろうぜ」

そう言ってお互い仕事に戻るべく病院を後にした。

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