今のオレに出来ること
「さて、そろそろ再開しようか」
「うォっす!」
チョウザの声にナルトがいち早く返事をし、みんながどっと笑った。
「みなさん、おつかれさんだってばよ!」
ナルトは包みを仕舞いながらニヤリと笑うと、右肘を折って掌を広げ、何かを掴むように指を折った。
『螺旋丸の構え?』
チョウジは首を傾げたが、ナルトの右手には何も現れず、しかし肘から先全体がわずかに光っているように見えた。
「チョウザのおっちゃん、今日はありがとう!」
ナルトがチョウザの手を握った。
「昼からも頑張ろうな!」
隣の人とも握手をする。
「でっけェ丈夫な橋、お願いしますってばよ!」
ナルトは一人一人に声をかけながら全員と握手をした。
最後にチョウジの元へ来ると、
「チョウジも…あんがとな!」
手を握りながら左手で肩を叩いた。
それと知られないように全員にチャクラを分けたのだ。
呆然としてしまっている秋道一族と同じく、そしてさらに目を潤ませるチョウジに、
「ちっとずつで、もーしわけねェ…」
ナルトはこっそり囁くと、
「んーじゃあ、あちらの皆さんのお相手に行って来るってばよー!」
と、頭の後ろに手を組んで行ってしまった。
「あの子…」
「ああ…我らの体型が変化しない程度にだなんて…」
「なんて緻密なチャクラコントロールなんだ…」
ナルトの後ろ姿を見送りながら感心する一族に、チョウジは本当に嬉しそうに笑った。
「ねっ?あれがナルトなんだ。ナルトはああいうやつなんだよ!」
「おーい!もう再開なのかーい!」
やってくるナルトに、見物客が声をかけてくる。
「おー!だからまた安全に見学してよーぜ!」
答えるナルトに、
「あんたは俺たちの相手してりゃいいだけだから楽だよな」
と誰かが言い放ち、皆がどっと笑った。
「皆さんがお行儀いーから、オレも楽させてもらってますってばよ」
ナルトは澄まして取り合わない。
『今のオレに出来ること』
いよいよ橋板が掛かる。見物客からどよめきが起こった。
『今のオレにしか、出来ないこと』
橋板がわずかに傾いだ。工事は一斉に各所同時にかかっている。それを避けあったり待ったりしなければいけないからか、板を渡す元と受けとる先とのタイミングがなかなか合わせにくいようだった。
「よーっし!みんなで掛け声かけっぞー!」
ナルトが叫ぶと、見物客が拳をふるって賛同する。
「そーれ!いーち!にーいの!さーんっ!!」
作業中の秋道一族の何人かが振り向いた。
「もいっちょ!いーち!にーいの!さーんっ!!」
見物客が声を揃渡す役同士が頷き合った。
「まだまだァ!いーち!にーいの!さーんっ!!」
ナルトが煽る。
『今、この場での、オレに出来ること。そして…』
「っしゃあああああ!!!」
板の一枚目がうまくかかり、全員で歓声をあげた。
「二枚目のときもやろうよ!」
「おおー!」
「にーちゃん!面白れーな!」
「皆の橋なんだもんな!皆でやろうぜ!」
「おー!!!」
ナルトは唇を引き結んで、ニヤッと笑った。
『オレの…やるべきこと』
自分がどうしたいかばかりではなく。
もう「やるべきことをせよ」と、それを求められているし、求められる存在になれと…
言われているのだ。
綱手からも、
いのからも。
『ありがてェ…』
ナルトはこっそりと右手を握り込んで胸に当てて目を閉じた。
オレの、やるべきこと。
もう一度、拳を当てた胸の奥で大切に反芻した。
**************
「たーのしかったなァ♪」
「うん!ありがとね、ナルト!皆から掛け声かけてもらいながら作業するなんて初めてだったから、すごく嬉しかったよ♪」
チョウジもにこにこと嬉しそうだ。
日暮れよりもずっと早く見事な橋がかかり、あの後見物客からささやかだけどいろいろな差し入れも貰い、秋道一族全員で均等に分けて美味しく頂いた。
「きっと行くから!木の葉にも行くよ!」
「また会おうな!」
里の外の工事を請け負ったのは初めてだった秋道一族も、これほど明るく賑やかなお礼を言われたのは初めてで、みんなチョウジに劣らず嬉しそうだった。
報告には自分が一人で行くからいいとチョウザに言われて解放されたナルトは、チョウジと並んで歩きながら一楽へ誘うか迷っていた。
正直な話お腹が空いていたし、きっとチョウジも同じだろうから一も二もなく賛成してくれるだろうとは思ったが、
『いのの気遣いを無にするわけに行かねェしな…』
チョウジに合わせるフリをしながらわざとのろのろと歩いて思案しているナルトに、
「お前たち!いいところで会った!今帰りか?」
イルカの声がして、二人は笑顔で振り返った。
「イルカせんせー!」
「うん!さっき帰ってきたんだよ〜」
買い物帰りのような荷物を抱えたイルカもニコニコと笑い、
「丁度良かった、手伝ってくれないか?」
頼むや用件もまだなのに、二人は
「もっちろん!」
「お安いご用だってばよ!」
と、即答した。
アカデミーへ向かいながらイルカが説明してくれた。
「収穫祭当日に使うカボチャがなぁ、いい加減大変なことになってしまってなぁ」
「カボチャ?」
呟いたチョウジがごくりと喉を鳴らす。
「そうなんだ、今年はカボチャが豊作でな」
イルカが笑いながらチョウジを見る。
アカデミーに着くとそのまま真っ直ぐに調理室ヘと向かうので、チョウジだけでなくナルトまでひくひくと鼻をうごめかせた。どう見ても空腹に間違いない男子二人の様子にイルカがまた笑う。
「たくさん練習用にさせてもらえるのは良かったんだがなぁ…」
そう言いながら手をかけた調理室の戸の向こうからは、甘い香りが漂ってくる。
「カボチャ…カボチャ…カボチャの煮付け…」
よだれを垂らさんばかりのチョウジとナルトを従えてイルカが戸を開けた。
カボチャを煮ているスズメがの隣にヒナタが居るのを見て、ナルトは思わず顔をほころばせた。
が、
その奥に、こちらを見て微笑みかけたいのがナルトを見てあからさまに嫌な顔をしてナルトを睨みつけてきた。
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