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今のオレに出来ること

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「えええーっ!無料ォー!?どーしてだってばよーっ!」

翌日の朝、執務室に響いたナルトの大声に、綱手は顔をしかめて耳をふさいだ。

「あーっ、もう!うるさいねェお前は、全く」

うんざりといった様子を隠さない。

「だってよ!だってよ!なにやったか書いたら報酬くれるって、ばぁちゃんが!」
「教わるだけならアカデミーの生徒だって出来るんだよ」
「うっ…」

ナルトは怯んだが、

「あっ!そうだ!手伝った!ヒナタを手伝って探し物をしたってばよ!」
「じゃあなんでそれを書かない?」
「ううっ…」

負けじと叫ぶが、返り討ちにあう。

「でもでも!白眼ついて詳しく…!」
「ナルト!」

綱手がいきなり机を叩いたので、ナルトだけでなくシズネも飛び上がった。

「血継限界の秘密を教わっただなどと二度と口にするんじゃないよ!」
「あ…」

わざわざ執務室に呼ばれたのはそのことなのか…ナルトはようやく気づいて肩を落とした。

「…ヒナタの立場も考えな…」

ナルトがあまりにもしょげかえるのでつい綱手の口調が緩む。

「本来は話してはいけない内容のはずだ。まぁお前が悪用するとは考えられないし、下世話な興味からでもないとわかって教えてくれたんだろうが…」

片肘をついてナルトから目をそらしながら綱手が続けた。

「ヒナタは日向の中で難しい立場にある。あの娘の悪評に繋がりかねない振る舞いは慎んでおやり」
「ヒナタの立場…」

ナルトはますますうなだれた。

「…どうした?」

ナルトがこうも落ち込むとは思っていなかった綱手は、さすがに心配になって身を乗り出した。

「オレ…オレと仲良くしてたら…ヒナタのためにならねェ…?」

ぽつりと聞いたナルトの言葉に、綱手もシズネもはっとする。
二人は長く里を留守にしていたため目の当たりにしたことはないが、ナルトがどんな幼少期を送ってきたかは聞き及んでいる。

「…それはないぞ。ナルト」

綱手が力強く受け合う。
が、ナルトはますます眉間の皺を深くする。

「足を引っ張りたいやつはどこにでもいるものだ。正々堂々としていれば問題はない。だが、」

ここで綱手はギロリと目付きを変え、ナルトもシズネもびく!と身構えた。

「軽率かつ配慮のない発言は慎め!もうそんなこと言われなくても出来る立場にとっくになっているはずだぞ!うずまきナルト!」

その怪力パンチにも勝る一喝に、ナルトは目を白黒させながら何度も頷いた。

「わかったんならもう行きな!」

またもや、しっしっ、と追い払う仕草で退室を促したが、戸が閉まる間際に、

「あ、今日も任務は特にない。誰かを手伝ってやってくれ」

と付け足した。

執務室を出て廊下を歩き出そうと向きを変えたナルトは、視線の遥か先にプラチナブロンドの同期が仁王立ちしているのが目に入ってのけぞった。

「げっ…」

ナルトが怯んで止まったからか、彼女は自慢の美髪をなびかせながらつかつかとこちらへ歩み寄ってくる。

「いの…」

仕方なく進んだナルトとかち合ったところで、いのはナルトの胸ぐらを掴むや有無を言わせず壁にどか!と押し付けた。

「あんたね…」

サクラはともかく、いのにもこんな力があるとは思っていなかったナルトは驚いて無防備になってしまう。

「昨日ヒナタと一緒だったんだって…?」

下から睨みあげながら常にはない低い声で静かに聞くいのに、

『サクラちゃんとは全然違う意味で怖いってばよ…』

とナルトは冷や汗を流した。

「私の言ったこと…まさか忘れたわけじゃないわよね…」

うっすらと微笑む顔がまた恐怖を増す。

「う…だってよ…」

正当な理由があるのだから堂々としてよいのに、なぜかおどおどと言い澱んでしまう。
ナルトは小さく頭を振って気持ちを切り替えた。

「昨日言ったじゃねェか、オレ、誰かを手伝ってって言われたって!んでさ、十班全員から断られたの、いのも知ってる…だろ?」

言い切る前にいのの手に力が籠り、きゅうぅっと首が絞まる。

「だからって…すぐヒナタのとこに行く…?」
「ヒナタに会ってキバもシノも任務で里に居ねェこと知ったんだってばよ!」
「そんなのは受付所に行って聞けばわかることでしょ!!」

そうか、も何も、いのは言いながらじわじわと確実に襟首を締め上げてくる。ナルトの背中を本気の冷や汗が滴り落ちた。

「今日はチョウジを手伝ってらっしゃい」
「えっ?昨日は手が足りてるって…」
「チョウザおじさんに話はしてあるから!行・っ・て・ら・っ・しゃ・い!」
「う、うぐ…わ、わかっ…たっ…てばよ」

いのがやっと手を緩めたので、ナルトは壁にもたれてゼイゼイと息をつく。

「はい、これ」

いのはナルトに包みを押し付けた。

「足りなかったら帰ってきてから補給すればいいんだからね、それで足りたって言いなさいよ!いいわね!」

何度も何度も念を押しながら去っていった。どうやら包みの中身は弁当らしかった。

そこでようやくナルトはいのにも医療忍術の心得があることを思い出した。



「よお!」
「あ、ナルト!今日はありがとう」
「よろしく頼むよ」
「あ、ハイ…こちらこそお願いしますってばよ」

チョウジとチョウザの親子ににこやかに挨拶をされて、ナルトも慌ててぴょこんと頭を下げた。

「さて、出発しようか」

チョウザの号令で秋道一族らしき団体が動き出した。

「今日は里を出て、火の国の外れの橋を架け変えに行くんだよ」

ナルトと並んで歩きながらチョウジが教えてくれた。

「橋かァ…」

ナルトは波の国のナルト大橋を思い描いた。

「大戦後に一応すぐ架けられたんだけど、急いでたから簡単な仮の橋で、まだそのままなんだって。大きな工事になると思うよ〜」
「ええーっ?!何日くらいかかんだ?!」
「いや、この人数だし、一日で終わるよ」

チョウジはのんびりと答える。
マジか?!と思うが、倍加の術を使えば…驚くほど早く終わるのかもしれない。

「もうすっかりね、土木工事で食べてけそうだねなんて言ってる人も居るよ」

チョウジは終止のんびりと言うが、本来は忍びの一族、忍びの任務ではなく土木工事の手伝いを来る日も来る日もさせられているとは、複雑な気持ちの者もきっと居るだろう。

「着いたぞ!すぐに作業を始めるぞ!」

先頭のチョウザが振り返って号令をかけ、みながそれに応じて声をあげた。

「今日は…本当にありがとうございます…」
「いえいえ、仮のままの橋で心許なかったことでしょう、精一杯のことはさせてもらいますよ」

チョウザが、数人の男性を連れた団体の代表とおぼしき老人と挨拶をしている。

「この橋を管理してる観光組合なんだって」

チョウジが教えてくれた。

手慣れたものですぐに役割分担は決まり、行動開始になった。材木を調達するもの、設計図を読み解いて指示を決めるもの、指示を待つもの。しかしナルトはやるべきことが分からず、まごまごとみなの間をうろついた。

「オレ…なにすりゃいいんだってばよ…」

チョウジの袖をそっと引っ張るが、

「うーん…とりあえずこっちはいいよ、手が足りてるよ」

とチョウジも困っている。

物資の輸送のための橋ではなかったが、見通しがよくそれでいて風光明媚な場所に架かるこの橋は主に観光などの人の往来が多く、それを狙っての土産物や軽食の売り歩きなどもよく往き来したりしていた。
架け変え工事が始まるとどこかで聞き付けて来たのだろう、たくさんの見物人が居て、忙しく働く秋道一族を珍しそうに眺めている。

「なぁなぁ、あんたたち木の葉の忍びってほんと?」

中のひとりがチョウジに話しかけてきた。その時ちょうど班ごと呼ばれてチョウジがまごついたので、そばに居たナルトが、

「そうだってばよ!」

と代わりに答えた。
向こうを気にしてチョウジが、行ってもいいかな?と言うように困った顔をしたので、ナルトは『大丈夫、行けよ』と合図を送った。
『恩にきる…』という仕草をして作業に掛かったチョウジを見届けていると、さっき質問をしてきた男が、

「あんた…あの人たちとは違う一族?」

と、またずけずけと聞いてくる。

「まあな、今日は手伝いで同行してきてるんだってばよ!」

ナルトは胸を反らして答えたが、男はふぅん…と鼻を鳴らし、

「あの人らと違って役に立たなさそうだよな、あんた。せめて邪魔になんないようにやんなよ」

と好き勝手なことを言って去っていってしまった。
ずぅん…と落ち込むナルト。

「それは…誰より…自覚してんだってばよ…」

とほほ…と泣いた視線の先に、作業をよく見ようとして不用意に入り込んでいる数人の一般人の姿が目に入った。秋道一族の何人かが倍加の術の印を切ろうとしていたので、

「危ねェっ!!」

ナルトは叫んで駆け出すと、影分身を出して一般人をひとりずつ抱えて飛び去った。
と、見る間に数人が倍加の術で場を塞ぎ、あのままあの場に居たら…とへたりこんで青ざめる一般人に、ナルトは、

「デカイ工事なんだからよ、近くで見てェのはわかるけど、あんま近づき過ぎんのは危険だってばよ?」

と軽く注意をした。
助けられた一般人が安堵したようにナルトを見上げたので、ナルトは安心させるように笑って頷き、

「んじゃあ、安全なとこまで下がろうぜ」

と、他にも近づこうとする人ごと一般人を誘導した。

「ねぇねぇ!あれも忍術なのかい?」
「そうだ!秋道っつー一族で、あれは『倍加の術』ってんだ」
「わぁ!見ろよ!あの人、手だけでかくなった!」
「おーよ!部分だけ倍加にすることも出来んだぜ!」

見物客がはみ出さないよう牽制しつつ質問に答えたり、飽きさせないよう巧みに相手をするナルトの様子に、遠くからチョウザがひそかに微笑んだ。

「そろそろお昼にしませんか?あなたもこちらに、どうぞ」

チョウザと挨拶をしていた老人がナルトを呼びに来た。言われてようやくナルトは自分もお腹が空いていることに気がついた。

「オレ…なんもしてねーんだけど…いいんですか?」

恐縮するナルトの先に立って老人は笑う。

「工事をお願いする代わりに食事をご用意することで…報酬の代わりにして頂いています。あなたも今日は『任務』なのでしょう?」

老人の微笑みがなにか淋しげな雰囲気をふくんでいるように思えて、ナルトはこっそり首を傾げたが、食事の場に近づいて目を見張った。

倍加の術を生業とする秋道一族は、そのためのチャクラ消費のため、もとよりかなりの大食を必要とする。
見れば、用意された食事は平均的な食事量の者たちでさえ足りないのでは?と思われるほどしかない。
老人が萎縮して、

「これが…我々の精一杯なのです…」

呟くように詫びたので、ハッとしてそちらを向く。

「い、いや、屋外でさ、大勢で食事してるとこ見んのすげー久しぶりだからさ!こうしてみるとスゲーよなァ!」

額に手をかざして大袈裟に驚いて笑った。

「きっと全然足りないんでしょうね…」
「いやいや!鍋で汁物まで出してくれるなんて!温ったけェもん食べれるなんてサイコーだってばよ!」

ニシシ!と老人に笑いかけ、ナルトは

「おお〜い!チョウジ!オレも食べるってばよ〜!」

と駆け出した。
老人はナルトの気遣いと、朗らかに食事を楽しむ秋道一族を眺めて、静かに一礼した。

「ナルトも!?」
「おおよ!オレは弁当だけどな!」

いのが渡してくれた包みを掲げると、秋道一族の中にほっとしたような空気がわずかに広がった。

『いのは…知ってたんだ…秋道一族が食事を報酬に土木工事を続けてたこと…別々に任務してるってのに…すげェな…』

ナルトはいのの気遣いに感動するとともに深く感謝した。
弁当の中身は小ぶりの握り飯がふたつきり。昆布の佃煮がわずかに添えてあるだけの、海苔も巻いていない塩握りだった。
秋道一族に渡る量より多くてもいけないし、極端に少なくても差し支えるだろう、まさに絶妙というほかなかった。

「握り飯も旨そうだね…」

隣でチョウジが呟いたので、

「んじゃー、そっちの汁物とひとくちだけ交換な!」

ナルトは包みを差し出し、お互いおんなじ量だけ交換をした。

「オレさァ…今日マジ役に立ってねェんだけど…いーのかな…」

頭を掻きながら、タハハ、と笑うと、

「そうかなぁ?助かってるよ?」

チョウジがキョトンとした。

「助かってる?!」
「うん!」

チョウジがにこにこした。

「いつもね、見物客とかの一般人がさ、危ないなぁって思ってたんだ。今日はナルトが誘導したり、説明したりして相手してくれて大助かりだよ!」
「…んなんで…いいのかァ?」
「いいよ!」

チョウジが肩を叩く。

「ナルトにしか出来ないことだよ。ありがとう!」
「オレにしか?」
「そう。今日のこの任務では、それがナルトの出来ることで、ボクらはそれでとっても助かってる。それでいいんだよ」
「…ありがとう」

チョウジの言葉が心に染みた。

ゆっくりと食事をしながら、

「…収穫祭、楽しみだよねぇ…」

やはりチョウジはのんびりと言う。

「だよな!いい祭りにしような!」
「うん!」

と顔を見合わせて笑った。

あの大量のカボチャは…スズメ先生が作ってくれるだろうカボチャのクッキーは…チョウジにも…秋道一族にも渡るだろうか。

それもだけれど。

『カボチャだけでなくたくさんの作物で、みんなが腹一杯食べれる日にしてェな…』

いのにもなにかお礼をしなくては。

ナルトは、握り飯をゆっくりゆっくり大切に味わって食べた。




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