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「#幼馴染」のBL小説を読む
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教わった!

里の外れの、まだ土木工事の手も至らぬエリアに差し掛かる。激しく変形し不自然に隆起・陥没した地形に心がぎゅっと痛み、心拍数があがる。
木々も草も生え一見緑豊かな土地に見えるが、森をえぐり土と岩だらけとなっていたであろう当時の面影はまだ容易に想像がついた。
大戦の被害分析は各国で今も続けられており、だいぶ進んでいると耳にする。
この辺りの被害はいつのどの戦況のせいなのだろうか…ナルトは顔を歪めて奥歯を噛み締めた。

「ひゃあっ…!」

森を抜けたとたん、細い声がした。
驚いて顔をあげたナルトの前に、白眼を発動させたヒナタが立っていた。
数人の子供たちの手を引いている。

「ご、ごめんなさい、急に…視界に入ってきたから…」

ヒナタは白眼を解除し、赤くなってうつむいた。

「いや…あの…オレも急に出てきちまって…ごめんな…」

ナルトもしどろもどろになりながら指先で頬を掻いた。
子供の一人が不安そうな顔をしてヒナタの手を引いた。

「お姉ちゃん…たっくんは…?」
「あっ!ごめんね、待ってね」

ヒナタはわたわたとまた白眼を発動させた。

「何してるんだ?」

ナルトの問いに、

「ん…迷子なの…男の子…」

言葉少なに答えるのが集中を要すのだとすぐに知れた。

「難しいのか?」
「ちょっと…」

ヒナタの眉間の皺が深くなっていくのを見てナルトが聞いた。

「あのね、泣いてるかもなの、たっくん…」

子供の一人がナルトの足元にしがみついた。

「森はまだ危ないのにっ…」

別の子が叫ぶ。

「…ちょいと待ってろ」

ナルトは子供たちに笑いかけると、ヒナタの肩に手を置き、振り返ったヒナタにも頷いた。
驚くヒナタの前で静かに目を閉じると、ゆっくりと目尻に紅い隈取りが浮かび上がる。

「仙人モード…」

ヒナタが小さく呟く。
目を開いたナルトは辺りをゆっくりと見渡し、

「…見つけた」

と静かに呟いた。子供たちがわっとわく。

「た、助けに行かなきゃ…!」

行こうとするヒナタを押し止め、

「ヒナタは子供たちについてろってばよ!」

言うや、さっと森へと消えていった。

「お姉ちゃん…」
「大丈夫よ…」
「あの人は?」
「あの人は…」
「僕知ってる!」

しゃがんだヒナタの周りに集まった子供たちの一人が大きな声を出した。

「あの人、英雄だよ!あの人がオレンジのうずまきナルトでしょ?」
「…そうだよ…」

ヒナタは微笑むと、得意気な様子のその子の髪を撫でた。他の子達も英雄と聞いて一気に安心する。

「わぁぁあん!!」
「ヒナタ〜!助けてくれってばよ〜!」

たちまち現れた男の子の激しい泣き声とナルトの情けない声とに、子供たちがどっと笑った。

「見つけたのはいーけど泣かれちまって…」

嫌がって暴れまくる男の子をやっとの思いで抱え込んで、ナルトはへとへとになっている。

「たっくん!たっくん…大丈夫だから…白眼のお姉ちゃんだよ…おいで」

ヒナタが手をさしのべると、男の子はいっそう大きな声で泣きわめきながらヒナタへと手を伸ばした。

「大丈夫…大丈夫だから…大丈夫だよ…」

ヒナタは男の子を抱き、とん…とん…と静かに背を叩きながらやさしく声をかける。男の子は泣き止むとヒナタの首筋にぎゅうとしがみつき、ぐりぐりと顔を埋めた。

「大丈夫…よかったねぇ、たっくん…もう大丈夫だよ」

歌うようなヒナタのやさしい声に、他の子達だけでなくナルトも顔をほころばせた。

子供たちを送っていく道すがら、ナルトは自分の状況を説明した。

「んでさ、キバとシノは?」
「二人とも…別々の任務で木の葉には居ないよ…」
「そうなのか!」
「うん…一緒だったり別々だったりしてるけど…」
「犬のお兄ちゃんと、虫のお兄ちゃん?」

子供の一人が嬉しそうに聞いた。

「また来てくれないかなぁ〜」
「時間が出来たら絶対来るって、二人とも言ってたよ?」
「本当?!」

嬉しそうに聞き返してきたところで母親たちのいる処へ着き、子供たちはてんでに駆け戻っていった。何度もお礼を言う母親に丁寧に挨拶をすると、ヒナタは別の方向に歩き出した。

「ここには大戦の…どのくらい後だったかな…八班三人で来たことがあるの」

歩きながら説明してくれた。

「キバくんは生態系の、シノくんは地質や地形の調査任務をずっとしてる…あちこちに呼ばれて」

ヒナタはうつむいて唇を噛み締めた。

「…ヒナタ?」
「わ、私は失せ物探しをしてるんだけど!」

ナルトの心配そうな様子にヒナタは明るい声を出してさっと顔をあげた。

「…仙人モードには…勝てないね…」

ははは…と泣きそうな顔をして笑ってまたうつむいた。

「…よくわかんねェけど…」

ナルトはそぅっとヒナタに近づきながら慎重に言葉を選んだ。
白眼の一族が、白眼が叶わぬと認めるとは、相当辛い心境に違いない。

「…今回はたまたま…仙人モードが適してただけ…ってことじゃねェのかな…?」

肩が触れそうになって慌ててわずかに離れる。
ヒナタはうつむいたまま微かに笑い、

「ナルトくんが手伝ってくれるって分かったらみんな喜ぶよ!」

顔をあげて明るく笑うと、詰所とおぼしきテントにいる人へ挨拶をした。

「迷子は無事見つかりました」
「そうかそうか!ありがとう!」
「この人は…もしや…!」
「はい、うずまきナルトです。今日は探し物を手伝ってくれるそうで」
「あんたが!!」

わっ!と周囲に居た人たちが老いも若きも歓声をあげてナルトを取り囲んだ。

「英雄うずまきナルト…!君が!」
「ありがとう!戦争を終わらせてくれて本当にありがとう!」
「英雄さまが我々の集落に来てくれるだなんて…!」

ナルトは久しぶりに受けた激しい歓迎に一瞬驚いて顔を歪ませたが、すぐに破顔してみんなに応えた。

「今日だけかもしんねェんだけど…」
「ありがたい…本当にありがたい…」
「いや、なんか照れるってばよ」

ヒナタはそれに加わらず見守っていた受付の人から探し物のリストを受け取り、そっと立ち去ろうとした。

「あっ!あっ!ヒナタ!オレも行く!」

ナルトは人垣の中心から手を挙げてヒナタに声をかけると、

「んじゃみなさん、オレも行ってくるってばよ!」

と挨拶をして、その場から跳躍して人垣を飛び越えヒナタの隣に着地した。
喝采に振り返ってピースサインで応えると、

「さ!行こうぜ!ヒナタ!」

ナルトはヒナタの腕を引いて先に歩き出した。

「ナルトくん…」
「ヒナタはさ、ここに何遍も来て詳しいんだろ?いろいろ教えて…手伝わせてくれってばよ!」

ぐいぐいを腕を引いてあの場から見えないところまで来ると、ヒナタに振り向いて笑った。

「う、うん…」

ヒナタはナルトの笑顔をぽかんとした表情で見詰めた後顔を落とし、ナルトへリストを見せた。

「ふんふん…なんだこりゃ?!すんげェややこしいな!!」

リストに書かれていたのは大小様々な物品だった。

「…人探しはねェんだ?」
「それは…とうに終わっていて…」
「あ…そうか…」

ナルトは頭を掻いた。
大戦終結からもう一年。生存者もだが、遺体のある没者もすでに探し終えているだろう。
復興の進まぬ土地では先程のような迷子探しはたまにあるが、大抵は大人も気を付けているし、そう頻繁にはないと思われた。

「…一年経つとね…無くしたあれはどうしたのかな?って余裕が生まれるみたいでね…」

今日はじめてヒナタが弾んだ声を出したので、ナルトはぱっと顔をあげて微笑んだ。
ヒナタはリストを大事そうに両手で持つと、

「これは…みんなの大切なものなの…小さな、つまらないもののようかもしれないけど…それぞれに大切な想いが詰まった、宝物たちなんだよ…」

そういって目をつぶると、リストをそっと胸に当てた。
ヒナタのその様子に胸が熱くなり、ナルトの目に涙が滲んだ。

『ヒナタってば…ほんとに優しい…ヒナタほどこの任務に向いてるヤツは居ねェよな…』

ナルトはそっと目をぬぐった。

「すんげェ大事な任務だな!頑張ってやんねェと!」

ニシシ!と笑いかけるナルトに、ヒナタはリストを胸に抱えたまま微笑んだ。

『ナルトくん…ナルトくんならきっと分かってくれるって思ってた…ほんとに…ほんとに優しいひと…』

「た、頼りにしてます…!」
「おう!二人で頑張ろーぜ!」

ナルトは心から嬉しそうに笑うとガッツポーズをしてみせた。

 探し物は想像以上に難航した。
人ならばあっという間に探せるナルトも、気配のない物品ではなかなか見つけることが出来ない。

「そういやさ、今日ばったり会ったときびっくりしてたのはなんで? 」

探し物をしつつ慎重に歩きながらナルトが聞いた。草や木が繁り、窪地や倒木が分かりにくくなっているのだ。

「えっと…急に目の前に現れたから…」
「んー?でもさ、見てたんだろ?急じゃねェじゃん…ここ、気を付けて…」

先に立ったナルトがヒナタに手を貸して助ける。

「ありがと、ナルトくん…あのね、見てたのは…経絡で…」
「経絡ゥ?!」

ナルトの手を借りて慎重に段差を降りたヒナタは、驚いたナルトをきょとんと見上げた。

「経絡を見る?!いや、経絡が見えるとは聞いてたけどよ…経絡を『見てた』って、ナニソレ?!」

瞬きを繰り返すナルトに小さく笑い、

「ごめんなさい、説明不足だったね…」

謝った。

ヒナタの説明によると、この辺りの植物の繁りようは激しく現に足元の地形も目視出来ぬほどで、普通の白眼では視界が遮られ途切れることが度々なので、経絡ならば生物しか視界に入らなくなるのでそうやって探していたらしい。

「丁度見通そうとしていた先にナルトくんが立ったから…びっくりして」

まさか至近距離に経絡のカタマリが横切るとは思っていなかったらしい。

「なるほど!そーなのか!」

ナルトはやっと納得すると、わくわくと顔を輝かせた。

「なァなァ!白眼てさ、どういう風に見えてんだってばよ?経絡だけモードとかがあるってことだよな?」

目をキラキラと輝かせて興味津々丸出しの顔で聞いてくる。

「そ、そうだね…」

ナルトの勢いに押されながらもヒナタは微笑んだ。
白眼に興味を持たれることは数限りなくあったが、これほど純粋に真っ直ぐ敬意と興味を示されたことはなかった。

「上手く説明出来るかな…」
「ダイジョーブ!ヒナタの説明、分かりやすいってばよ♪」

ナルトはニシシ!と、笑うとヒナタの手を引いた。

「足元…危ねェからよ…」

控えめに笑い、それをごまかすように大きく笑う。
こんなにもはっきりと「まだ手をつないでいたい」と示されたこともなかった。

「ありがとう…ナルトくん…」

ヒナタは首をかしげて少しだけ泣きそうな顔をして笑った。
ナルトはわずかに目を見開くと照れたように顔を伏せた。

「んじゃさ、あのさ、そうだ!植物は?植物も生きてるだろ?植物に経絡みてェのはねェの?」

慌てたような早口で聞いた。

「植物は…そうだね…」
「うん、うん!」

手をつないだまま探し物をしながら、二人はたくさん話をした。



***********

「うん?」

今日提出された任務報告の束の中に、書きなぐったような下手くそなデカイ文字を見つけて、綱手は片眉をつり上げた。
それを取り上げて読むと、

「バカが…こんな内容で、報酬は出せるわけがないだろ…」

びっ!と部屋の隅へ弾き飛ばした。

「全く…」

くっくっといかにもおかしそうに、嬉しそうに笑うと、

「シズネ、お茶を入れておくれ。さぁ、まだまだ頑張らないとね!」

書類の山に取り掛かった。

「は、はい」

反射的に用紙を拾いに行っていたシズネはそれを掴むと慌てて立ち上がった。
お茶を入れるために向かう途中それを読んだシズネも、くすり、と小さく笑った。

紙にはナルトの字で、

  “ヒナタに びゃくがんについておそわった。”

と書かれていた。

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