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- ナノ -
無意識。

「あー美味しかった!おじさん、替え玉!」
「ええっ?!まだ喰うの?!サクラちゃん」
「アラ。だって、医療忍術使うとお腹が空くんだもの」

任務を終えての報告からの帰りに寄った一楽のカウンターで、サクラはけろりとそう言うと、お水をつぎに来てくれたアヤメに「あ、チャーシューもお代わりで」と頼み、

「これがオゴリなら更に美味しーとこなんだけどなぁ〜♪」

隅に座ってこちらを向いているナルトをちらりと見ながらレンゲでスープをすくうと、旨そうにそれを飲んだ。

「ハハハ…ま、いーけどよ…」

ナルトが力無く笑うと、サクラの向こうからサイが、

「そうか…ボクはサクラと違って、理由もないのにナルトにご馳走になったり出来ないよね…」

と寂しげに言うので、ナルトは、

「七班の!七班のラーメンは!不肖うずまきナルトがおごらせて頂きますってばよ!!」

観念して叫んだ。

「やったぁ〜♪」
「さすがナルト!」

サクラとサイがはしゃぐのを横目に、ナルトはがまちゃん財布をひっくり返してこっそり泣く。

「ナルトちゃん!長い付き合いだ、足りないんならツケとくから安心しな!」
「テウチのおっちゃんまで…」

店中の人にどっと笑われたところで、

「なんだなんだ?賑やかだな」

キバを先頭に、同じように任務帰りとおぼしき八班の三人が入ってきた。
一番後ろのヒナタを見るや、ナルトは顔を強ばらせて目を反らした。

「まーたナルトがなんかやったんだろ?」

キバがからかいながらサイの隣に座った。ヒナタ、シノと続きカウンターを占めてしまう。

「あったりぃ〜」

サクラが明るくそう言い、チャーシューを箸でつまんでぱくん、と食べる。

「あのね、サクラちゃんね、」

ナルトの苦笑いにまた笑いが起こる。

「どうした?ヒナタ。ラーメンは無理そうなのか?」

うつ向いているヒナタにシノが声をかけた。キバは七班の三人に加わってわあわあやっていて、二人のやりとりは誰も聞いていない。

「あっ、うううん、大丈夫!むしろ、一杯で済むかなぁ?とか考えてたの!」

ヒナタは左右に首を振ると、シノを見上げて微笑んだ。

「…」

ヒナタに顔を向けていたシノは一呼吸間を開けたが、ゆっくりと話しだす。

「ならばいい。美味しく食べられないのなら食べるべきではない。何故なら、無理矢理の食事とは結果、正しく栄養の…」
「ごっそーさんっ!」

突然バチン!と音をたてて小銭を置く音が響いた。
いつもより低い声でそう言ったナルトが、まだ食べているサクラとサイを残して店をさっさと出ていってしまった。

「どうしたんだ?ナルト?」
「ほっときなさい」

サクラは澄ましてそういうと、スープを飲み干そうとどんぶりを持ち上げた。

「からかわれすぎて拗ねたんでしょ。いつものことよ」
「そーゆーもんか?」
「そーよ、いつものことよ」

感心するキバをよそにサクラはすっかりキレイに平らげると、

「ご馳走さま!美味しかった〜!ありがとうございました!」

と言い、サイを促して出ていった。
ふーん、とそれを見送ったキバはやっと仲間を振り返り、

「お前らまだ注文してなかったのか?!」
「あ…う、うん…ごめんね…」
「……まあな。いろいろとな」
「ったく、なにやってんだよー」

キバは自分のラーメンを前に割り箸を割りながら、

「おっちゃん、こいつらに味噌ラーメンな!あ、ヒナタはチャーシュー少なめで」

言うや麺をすすりこんだ。

「キバ…なぜお前が勝手に頼む…」
「チャーシュー…今日は…多めでも…良かったのに…な…」

震えるシノとしょんぼりするヒナタに構わず、

「しっかし…急に不機嫌になったヤツを『ほっとけばいーのよ』なんて、相変わらず雑いよな、七班て」

キバは店中の「お前が言うか?!」と言わんばかりの視線に気づいていないのか、機嫌良くラーメンを食べ進める。
ナルトのほうを一切見ていなかったヒナタは、そうなの?と言うように首をかしげてシノを見上げたが、シノは曖昧な反応をしただけだった。


*******

「だーっ!もう!なんかイライラする!!」

飛び出したはいいが、目的があったわけでもないナルトは足の向くまま歩きながら両手でがしがしと頭を掻きむしった。
歩くより走るほうが心境にはあっているのだが、こういうときは怪我をしやすいことも知っている。
とは言え、ただうろうろしていれば誰彼となく声をかけてくるのが煩わしい。

「ぐわーっっっ!!もォおおおお!!」

ナルトは天に向かって吠えたあと、地を蹴って飛び上がった。
町並みを抜け、高台の森に向かう。
高い木のひとつにそのまま駆け上がり、これ以上は無理だという高さまで来ると、そのままその枝にしゃがみこんだ。

見晴らしの良さと吹き渡る風に、気分がわずかにほぐれる。が、

「あっ…つ…」

無闇に駆け巡ったせいで小枝などで引っ掻けたのだろう、手の甲や頬に細かな傷が出来、わずかに血がにじむそこに風がひりっとしみた。

「ほっときゃ勝手にふさがらァ…」

ホルスターに傷薬が入ってるのを知っているのだがわざと無視をする。

それは…中忍試験のときに、ヒナタからもらったものだった。

中身はとっくに使い果たしていたのだが、使い勝手がいいとかなんとか、詰め替えていつも持ち歩いていた。
未熟だった当時には、もらった薬はよく効いたし重宝したが、市販品を詰め替えてからは傷の治りの早いナルトは使用することもほとんどなく、ただ“入れっぱなしになっている道具”のひとつに過ぎなかった。

だいたい、入れていることさえ久しく忘れていたというのに。

「使わねェんなら…持っててもしょうがねェ…よな…」

ナルトは前を向いたまま片手で器用に容器を取り出し、放り投げようと手をあげたが、

そのままゆっくりと下ろして、手の中でくるくると弄んだ。

「こっから投げたら危ねェか…」

さっきから一体、何に?なぜ?誰も居ないというのに言い訳がましいことをわざわざ口にしているのだろう…。

梢を掠める風はもう冷たい。

ナルトは遠い眼差しをしたまま口元で両手を合わせ、じっと町を眺め続けた。

「よければこちらで処分するが?」
「どわ!わわわ!!!!」

突然の低音ボイスに、ナルトは木から落ちそうになって慌ててチャクラを練り固めた。

「オマエ!急に声かけんなってばよ!」

隣の木の枝にシノが立っていた。

「急にとは失礼な。何故なら、お前が思っているよりも早くすでにここに居たからだ。それよりも、」

シノは言葉を切ってわずかに息をもらした。

「つけられていることに気づかないとは。それで火影になりたいとは笑止だな」
「うっせェ!」

静かに嫌みを言うシノにナルトは顎をつきだして悪態をついた。

「ずっとか?」
「?」
「ずっとオレをつけてたのか?」
「いいや。お前が駆け出したのを見かけてからだ」
「…気づかなかったってばよ…」

ナルトは神妙な顔をして頭を掻いた。

「んで?」
「?」
「なんか用事あんだろ?」

身体は前に向けたまま顎をあげて横目でシノを睨み上げる。

「…」
「なくて勝手につけてたのかよ?」

眉をひそめるがシノは動かない。

ややあって、

「…ひとこと言おうと思って来た」

急に口を開くので、

「のわ!?!」

ナルトが驚いてまた揺らいだ。

「だ・か・ら!急に話すなっつの!」

ぶちぶち言いながらシノの言葉を待つ。

「謂れもわからぬままに、」

シノは先ほどから身じろぎひとつしない。

「睨まれる筋合いはない、という苦情だ」
「はァ?!」

ナルトは思いきり不機嫌な顔で言い返す。

「睨んだ?!オレが?オマエを?いつ!?」

もはや軽く喧嘩腰だが、

「…先ほど一楽で、ヒナタが俺に笑いかけたときだ」

とシノが静かに告げたときは、目を見開いて固まった。

「一体何がどうなって、そんな仕打ちを受けねばならんのかわからんが…」

シノは続けるが、ナルトの顔が段々とうつ向いていくのを見て言葉を切った。

「無闇に不機嫌そうにされてもこちらも困る」

ナルトは両腕をしゃがんだ膝に乗せ、じっと黙りこんだ。

「……悪りィ…。覚えがねェ…」

ようやく絞り出したような声で呻くように言ったのを、シノはやはり身じろぎせずに聞いていたが、

「無自覚、というわけか」

ぼそり、と呟いた。

「えっ…?」

ナルトは反射的にシノを見上げた。右手にはさっきからずっと傷薬の容器が握られていて、てすさびなのか時々縁を指先でなぞったりしている。

「いや。こちらの話だ」

その言葉にわずかに不安そうな表情になるのを、シノはじっと見つめた後、

「用はそれだけだ」

立ち去ろうと身体の向きを変えた。

「ん…。よくわかんねェけど…ごめんな…」

ナルトはまた前を向き、遠くを見ながら口元に両手をやって擦り合わせた。
跳躍の直前にシノはナルトを振り返ってその様子を見、音も立てずに姿を消した。

「あれも無自覚、なのか…」

走りながらシノはそっと呟いた。

「厄介なことだ…」

立ち去る前、声をかける前と同じ仕草をしたナルトを思い返す。
誰も居ないところに一人で居ると思うから、してしまうのだろうか。

シノはあの容器がヒナタからもらったものだと知っていた。


ナルトは、口元で合わせた手のひらの中の容器を唇に押し当てて、時おり指先で縁をなぞりながら…

結局、日が暮れるまでそこでじっとそうしていた。






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