クリスマスをきみに
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「サンタクロースなんて居ないって、いつ知った?」
という問いに、
「うちには煙突なんかないもん…て思ったときかなぁ…」
と、うっかり答えてしまい、ヒナタは、はた!と顔をあげた。
全員が目を見開いてこちらを見ている。頬がじんわり赤く染まるより早く、
皆の爆笑が響いた。
「煙突!煙突か!」
「煙突は必須なのね!かーわいーい!ヒナタったら!」
「ソコじゃねーだろ!」
シノすらも肩を揺らしているとは。
ヒナタは恥ずかしくなって涙ぐみながらうつ向いた。
「だって…だぁって…」
「ごめん、ごめん、」
笑いすぎの涙を拭いながら、隣に座ったいのがヒナタの肩を叩き、
「 もー!ヒナタったら可愛いーんだから!もう!」
と抱きついてきた。
「おー、よしよし、泣くんじゃないよー」
そのまま頭をなでなでしてくれるのでますます目も頬も赤くなる。
「うちはさー毎年毎年犬に関するプレゼントでさー、さすがに、サンタ、犬に詳しすぎんだろ!って思ったときかなー」
「あー、わかるわかる!うちもねぇ、毎年新作のポテチでねぇ、」
ワイワイと皆が話し出しても、いのはヒナタの頭をなで続けてくれていた。
『言うんじゃなかった…』
ヒナタはちょっぴり後悔した。
みんなは気づかなかったのだろうか、不安で胸がドキドキしている。
『あ…でも…』
自分を抱き締めて頭をなで続けながら会話に参加したいのの声をぼんやりと聞きながら、ヒナタはそっとナルトを見た。
いつものように目を細めて笑いながら皆にちゃちゃをいれている。
『ナルトくんのところには…サンタさんは…』
来たのかな?ふと思う。
未成年であるナルトが「火影預かり」という身であると知ったときは本当に驚いた。
確かにナルトが人柱力であるだけでなく四代目の忘れ形見でもあると知れば、その処置は当然のことだと思われたが、
それにしても、三代目ヒルゼンは少なくとも“父親代わり”などやってくれていなかったことは、ここに居る皆もヒナタもよく知っている。
あれはまさしく、「誰も引き取りたがらない忌み子を致し方なく火影名義で保護している」としか思えず、また事実そのようにしか接することが出来ない事情もあったのかも知れないが、
ナルトが木の葉唯一の人柱力であることや、その誕生のいきさつを知るにつけ、なぜあれほどに突き放されて育たなければならなかったか、いくら考えてもヒナタには理解出来なかった。
ナルトからは愛だけでなく社会まで奪われていたのだ。
愛を受けられないだけでなく、身の置き所すらないままたった一人で寝起きをしていたとは。
『私…ヒルゼンさま…好きじゃない…』
遠い幼い日、たまに日向の屋敷を訪れてはまだ若い父と並んで呵々大笑していたヒルゼンを、あの頃は頼もしいと思っていたのに。
するり、と、いのの腕か解けて席を移動していったのがわかる。ヒナタはようやくテーブルに手を伸ばし、氷がとけて水滴まみれになったグラスを持ち上げて中身を飲み干した。
「どした?ヒナタも次、頼むか?」
空いた横にナルトが座り、ヒナタは飛び上がった。それをいかにもおかしそうに笑って見ていたナルトは、通りがかった店員を呼び止めてきぱきと飲み物の追加を発注する。
「ヒナタは?その次、」
ナルトに急に声をかけられてまた飛び上がる。
「えっと…えっと…」
「んー…じゃあとりあえずウーロン茶で」
「わかりましたー!」
店員を見送ると、ナルトはまたヒナタを向き、
「悪りィな、勝手に頼んじまって」
そう言うと、自分のグラスを持ち上げて飲んだ。
「う、うううん、ありがと…」
ヒナタはうつ向きながらごにょごにょとお礼を言った。
ナルトはもう皆の会話に入っている。
ヒナタは何となくぼんやりと前を向いたまま、焼け焦げて網にこびりついた肉の欠片や野菜くずを箸で引き剥がしたりしていた。
そこへ追加の飲み物が届き、ナルトが甲斐甲斐しく皆に渡してやる。
「ほい!ほんとにウーロン茶でよかったか?」
最後にヒナタの横にウーロン茶のグラスを置いてくれた。
「あっ、うん…ありがとう…ナルトくん」
「どーいたしまして!」
あれきり笑っていなかった自分を反省して笑ってお礼を言ったのに、更なる笑顔で返されて、ヒナタはますます落ち込んだ。
『ただでさえ…「暗い子」なのに…要所要所の笑顔さえ…へたくそだなんて…』
新しいグラスを握りしめてうつ向いたヒナタを、ナルトが不思議そうに眺めている。
「ナルトくんのところには…サンタさん…来たことある?」
思いきって顔をあげると、なるべく明るい顔をしてそっと聞いてみた。
「んー」
前を向いて飲み物を飲みながら唸ったナルトは、口を離したグラスをテーブルに置くと、
「…あるよ」
ヒナタを見てニヤッと笑った。
「…そうなんだぁ…嬉しいね」
ないよ、と言われたら、私も、と言うつもりだった。私もないの…ナルトくん…。
でも、「あるよ」と言ったナルトの顔が、いつもより控えめではあったけどとても嬉しそうだったから。ヒナタは自然と心から微笑んで喜んだ。
「サンタさん…嬉しいね」
「うん!すっげェ嬉しかった♪」
どうしてだろう。彼が嬉しいクリスマスを過ごしたことがあるなら、自分が一度たりともクリスマスを経験したことがないことなんか、本当にどうでもよくなってしまった。
「何をもらったの?」
首をかしげて微笑みながら聞いてみたら、
「ナイショ!」
ニシシ!と笑ってかわされてしまった。
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