◆ Trick or Treat ◆
どうしたんだろう…。
ナルトに手を引かれながらヒナタの鼓動は不安と共にどんどん激しくなっていく。
あんなに無邪気に、あんなに楽しそうに、こちらが困ってしまうほど可愛くはしゃいでいたのに。自分が笑いかけたとたんに顔色を変えてしまったナルトに。
『私、何かしたのかな…ひょっとして…教えてって社交辞令なだけで…本気にした私に呆れてしまったとか…』
涙がじわりと沸き上がるのを唇を噛んで必死にこらえる。
『うううん、違う!ナルトくんは心にもないことなんか言ったりしない!そうじゃなくて…私の笑顔が…みっともなくて…誉めようがなくて困らせた…とか…?』
振り向きもしないナルトの背中がじんわりと滲んで見えにくくなる。
今日の衣装は正直少し恥ずかしかった。スカート自体滅多にはかないからと嫌がったのを丈が短くないからと説得されてはみたが、胸はなんだか常に目立つし、スカートも裾が不揃いで動く度にひらひらして、思いの外膝が見え隠れするのが気になっていた。
だけど…だけど…もしかして…
少しは…可愛い…って…見えないか…な…なんて…
こっそり思い上がってしまっていた浅ましい気持ちを見透かされてしまったような惨めな気持ちになって、ほろりと涙がひとつぶこぼれた。
『いけない…泣いちゃだめっ…』
湧きあがりそうな涙を塞き止めるようにぎゅっとつぶった瞬間、突然ナルトが足を止めたので、ヒナタも慌てて立ち止まったが、顎を深く引いて顔を見られないように深くうつ向いた。
一歩分くらい離れているナルトとヒナタをつなぐ手と手。ゆるく架けられた橋のようだが、橋は距離をけして縮めはしない。
「ごめん…」
振り向いたと思しき声がして、しっかりとつながれていた手がゆるりと離れていく気配がし、ヒナタの胸がきゅぅっと痛む。
だが、ナルトの指はヒナタの掌をするりとなぞるとその先の指を絡め取る。
「きゅ、急に早く歩き出しちまってごめんな!」
無理に明るい声を出そうとしているのを感じとり、ヒナタはますます顔をあげられなくなってしまう。
「その…腕、大丈夫か?なんて聞いたくせに…引っ張ったりしちまって…ダメだな!オレ!」
アハハ、と明るい笑い声がする。つないでいない方の手で頭をかいているに違いない。
早く早く顔をあげなくちゃ…
ヒナタは急いで準備をする。
「ほ、ほんとだよ!…ナルトくんっ…」
顔をあげて笑った…つもりだが、どうやって筋肉を動かせばいいのかわからなすぎて自分自身に泣きたくなる。
「お、お陰で目にゴミがいっぱい入っちゃうし…歩きにくかったよ、ナルトくんっ…」
言えた…。苦しい理屈だったがとにかく言えた。
怒ってみせたふりをしてへの字に結んだ唇の端を、そろそろと引き上げてみる。
驚いていたナルトの表情がゆっくりと歪んでいく。
「無理させてゴメン…」
ナルトがつないだ手をゆっくりと引いた。つられてヒナタの顎があがる。
「ゴメンな…ヨユーねーの…みっともねェなァ…オレ…」
首をかしげると一瞬淋しげに笑ったが次の瞬間、目を細めて歯をむき出しにして、いつものようにニシシ!と笑顔を爆発させた。
その笑顔にようやくホッとして、そして緩んでいくような感覚にじんわりと包まれながら表情も緩ませていくヒナタを、やさしい顔でじぃっと眺めた後、
「行こっか!」
ニカッと笑った。
「う、うん!」
まだぎこちなさは残るが、さっきよりは随分笑えてると思う…ヒナタの胸のうちがようやくほわりと温もった。
ほどけていく笑顔。
「んじゃ…」
ナルトは手を引いてヒナタを自分の横へ来させると、空いている手でマントを掴んでさっ!と翻すと、
「参りましょうか!」
つないだ手を恭しく掲げて大袈裟にお辞儀をすると、顔をあげて、ニヤッと笑った。
「はい」
ヒナタは膝を折って礼に応える。
二人は顔を見合わせてにこり、と同時に微笑むと、手をつないだまま賑やかなほうへと軽やかに駆け出した。
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