◆ Trick or Treat ◆
「ご、ごめんなさい…ほんとにごめんなさい…」
「いや…だから…別に謝ることじゃ…」
ヒナタが身仕舞いを整えながらナルトに謝る。
『うーん…ヒナタ…ちょーし狂うんだってばよ…』
ナルトは首をかしげながらばりばりと頭をかいた。
列から離れて町のベンチまで気絶したヒナタを運ぶと、
「んじゃナルト、ついててあげて。ヒナタが起きたら合流しに来てね」
いのがテキパキと指示をし戻りかけると、
「えっ?」
「なんでナルトが?」
「そーだよ!」
シカマル以外の三人から不満の声が漏れた。
「何よ、ダメなの?」
いのが苛立ちを隠さず柳眉を逆立てると、
「ナルトのせいで倒れたんだから適任じゃないんじゃない?」
「えっ?オレのせいなの?!」
「そーだぜ、また気絶すんに決まってら」
サクラとキバは理由を言うが、
「ねぇ、ねぇ?なんでオレのせいなんだってばよ?」
ナルトはひとり、わかっていない。
「アタシがついとくわ」
「女子は私ひとりで行けっての?」
「う…」
「だぁら!俺がついとくって」
「…あんたサクラとペアなのよ、なに言ってんのよ?」
「うげ…」
二人がつまったところで、
「ハイハイハイ!」
いのがパンパンと手を叩き、
「そいじゃ行くわよ!ナルト!よろしくね!」
「なんで?なんでオレのせいなの???」
「よーろーしーくーねー!!!」
首をひねるナルトに怒鳴り、
「お、おお!わかった!」
気圧されて返事をしたのに、にっこりと笑いかけ、
「さ、行きましょ」
と戻って行ったのだ。
「わ、私どのくらい寝てた?」
「ん?大した時間じゃねェよ?」
「は、早く戻らなくっちゃ…」
「いーけど…大丈夫か?」
「えっ?」
「腕、」
言うや、ナルトはさっきまでヒナタが使っていた箒を取り上げた。
「おー、けっこう重てェな!」
「そ、そうでもないよ?」
「いやいやいや、」
くるり、と片手で器用に一回転させると、
「 ずっと止めずに回し続けるにはけっこうな重さだと思うぜ」
ニカッと笑いかけた。
ヒナタは目を見開いたがすぐに照れて視線を落とした。
「仕込みもしてたろーし、さっきの方が重かったろ?腕、疲れてねェか?」
「だ、大丈夫」
慌てて顔をあげてヒナタが謙遜する。
「た、鍛練の一種、っていうか…前々から少しやってて…」
「箒振り回すのを?!」
「!?!うううん、箒じゃなくて棍を…」
「棍?!棍って、なっがい棒っきれのことだよな?!」
「う、うん」
修行に類することなら食い付きがいいナルトが、「鍛練」という単語に反応してぐっと顔を近付けてきたが、勢いに気圧されて気が削がれたのか、ヒナタも気絶する間もなく会話を続けてしまう。
「中距離戦対策というか…腕の先を意識するのにいい鍛練だってことで…」
ここで一旦言葉を切り、
「でも…箒は確かにちょっと大変だった…かな?しなり方が棍とは違うし…でも、面白かった!」
ヒナタにしては一気に言い切り、にこっと満足そうに笑った。
片手でくるくると箒を回していたナルトは大きく目を見開いていたが、つられるようににっこり笑うと、いつものようにニヒッと歯を見せて笑い、
「やっぱすげェな!ヒナタは!」
そう言うやベンチ座ったまま背もたれに当たらぬように器用に箒を回し、両手に持って構えた。
「腕の延長線?」
片手を箒に添わせるように伸ばし、もう片方の手は大きく引いて構える。
「こうか?」
目線を穂先に合わせやや低く構えるのを見て、
『ナルトくんたら…反応が早い…』
ヒナタは感心するが、そのままナルトが箒を振り回そうとしたのを見て、
「あ、危ないよ、ナルトくんっ!こ、ここじゃ…」
と慌てて止めると、はっと我に帰ったナルトが箒を引き、エヘヘ…と頭をかいた。
「わり…ついやってみたくなっちまって…」
ニシシ…と笑うのにヒナタもつられて笑ってしまう。
「じゃあさ、今度教えてくれってばよ!」
「えええ?!お、教えるなんて…そんな…」
「ヒナタが普段やってるやつでいいってばよ」
「そんな…そんな…」
困るヒナタにナルトは、地面に立てた箒に両手ですがるように捕まると、
「…ダメ?」
と、唇を尖らせて上目遣いで聞いた。
『そんなっ…ズルい…上目遣いなんてズルいよ、ナルトくんっ…』
ヒナタの顔はたちまち真っ赤に染まり、目まで潤んできてしまう。
ダメ?だなんて可愛く聞かれてしまったら…
「は…はい…いいです…」
膝に揃えて置いた手でスカートを掴んでうつむくと、答えてしまっていた。
「マジーッ?!やったーあ!!」
両手をあげてはしゃぐナルトに、ヒナタはさらにくらくらする。
『男の人なのに、か、可愛いなんて…なんて、ズルいよ…ナルトくん!!』
複雑な心境にどんな表情をしていいのか混乱したまま、はしゃぐナルトを見ていたが、
遠くから、わっ!!という歓声があがり、二人は同時に飛び上がった。
「やべ!忘れてた!」
「は、早く戻らなきゃ、だね…!」
わたわたと立ち上がる。
ヒナタは帽子とスカートの皺を伸ばし、ナルトはマントの裾を気にし、苦しくてくつろげていた襟を慌ててとめる。
「今の…なんかまたパフォーマンスやったのかな?」
「サクラさんが何かやったのかも…」
「あっ!そうだ!」
突然の大声に驚いたヒナタに構わずナルトは、
「さっきの!蝶々のやつのからくりも!今度教えてくれってばよ!」
ニカッと笑いかけた。まるで子供のように無邪気なナルトにとうとう観念したヒナタは、ふんわりと笑うと、
「う、うん!…今度…ね」
首をかしげてナルトを見上げた。
さっきのようにはしゃいでもっと喜んでくれると思ったのに…ナルトの顔から笑顔が消える。
ふい、と顔をそらすと下を向き、そのままヒナタの手をひっつかむと、
「行こうぜ」
と、乱暴に歩き出した。
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