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「#幼馴染」のBL小説を読む
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◆ Trick or Treat ◆

うきうきとやる気満々な黒髪の悪魔、やる気のなさそうなたるい動きの狼に続いて、高い襟に慣れずぶつぶつ文句を言う金髪の吸血鬼の顔の腫れがなんとか治まった頃、六人はようやくアカデミーに到着した。

「おー!すごいな!お前たち!」

出迎えてくれたイルカが本当に嬉しそうで、六人もつられて笑顔になる。
すでに薄闇が降りはじめた校庭のあちこちでは、カボチャの灯籠が点りはじめている。
リーとテンテンの引率で子供たちが出てきて整列しはじめた。どの子も紙やリボンなどで作られた簡単な衣装や飾りを身に付けて仮装している。

「オレンジ色に黒だって…ナルトくんとキバくん、みたい」
「へっ?」

独り言のつもりだったヒナタは、ナルトの声と聞かれていたということに縮み上がり、

「ご、ごめんなさい!ふ、深い意味はないの…」

わたわたと恐縮しながら謝った。

「いや…別に謝ることじゃ…」

調子が狂う…とナルトは片方の眉をあげて顔をしかめてヒナタを見た。
オロオロしながら目線をさ迷わせ、ちら、とこちらを見たかと思えば、目があった!と縮み上がりまた目線をさ迷わせる。
これまで、打てば響くサクラとばかり接触してきていたナルトには、ヒナタの態度はどう接していいのやらわからない。

『ヒナタってば…なんつか…ちょーし狂うなァ…』

ナルトは軽い目眩を感じて天を仰ぎながら小さくため息をついた。

「出発しますよー!」

先頭でリーの声がし、生徒の列が動き始めた。
このまま里の表通りを歩いて仮装を見てもらった後、グループに分かれてあちこちの店や家で「trick or treat」をやるのだ。
ナルトたちはまさに賑やかしで、子供たちの列に加わりながら沿道の人たちを脅かしたりからかったり煽る役目だ。

「が、おー…」
「ばっかやろ!!なんだその声はぁ!」

シカマルのやる気ゼロの狼っぷりに犬塚として我慢ならないキバがダメ出しをする。
生徒や沿道の人たちも大笑いで、狙いは違うんだが…と列には加わらないが付いて歩いているイルカも苦笑する。

「にゃん、にゃん、にゃーん♪」

と、ノリノリでポージングするいのには、沿道から離れて見ていた上忍のお兄さんたちが悶絶する。

「キバったら!恥ずかしい!」

顔を赤くして怒るサクラをよそにゲラゲラと笑うナルトの横でくすくす笑っていたヒナタは、列が表通りの中央に差し掛かると、

「わ、私、ま、魔法を使います!」

そう宣言し、

「えいっ!」

声をかけるや、背丈ほどの大きな箒を振り回しはじめた。

ふわふわと揺らすとキラキラした粉が舞い、緩やかな光の帯を中空に描く。

「わぁ♪」

あちこちから歓声があがり、一気に注目を浴びたヒナタがはにかんで真っ赤になりながら、

「ふ、うっ!」

呼吸を変えると、自身も回転しながら箒を早く振り回しはじめた。ヒナタと箒の軸の動きは早いが、上に、下に、穂先のしなる動きは不思議に遅く優雅で、舞いを見ているようだ…と思ったとたん、

ひら…ひらり…

と穂先から蝶が舞い上がりはじめた。
次々と出現しはじめた蝶を穂先で撫でるように動かして中空で整列させると、今度は箒を上下に細かく揺らす動きに変わる。蝶は一斉にゆらり、と広がると、優雅にゆうらりゆうらりと辺りを舞い散りはじめた。
歓声がさらに大きくなる。

「い、言ってみて?」

ヒナタが箒をさばきながら沿道にいる子供のひとりに声をかけた。

「えっ?えっ?」

と慌てる子供に駆け寄ったサクラが、

「ハロウィンの言葉よ!」

と、ウインクした。

「あ!あ!trick or treat!」

子供が叫ぶと、ヒナタはにっこりと笑い、その子の前に蝶がひらり…と降りてきた。

「手を出して?」

その子と会話をしながらも箒を止めず、すべての蝶を舞わせ続けていることに気づいたナルトがこっそり舌を巻いた。

『ありゃけっこう大変なはずだ…ヒナタすげェな…』

淀みなく軽やかな動きで観客には気づかせていないことにも驚愕する。
子供が出した手に蝶が止まったか?と思うと、それは一枚のクッキーに変わっていた。オレンジ色のカボチャのアイシングが施されている。
またまた上がる歓声。

「trick or treat!」

子供たちの大合唱が始まってしまい、アカデミーの生徒たちが羨ましそうに立ち止まるが、ヒナタは沿道にいる子供たちに箒をさばいてひとつづつクッキーを配っていく。

すべてのクッキーを配り終えると、最後にまた中空をゆらりと撫でた。光の帯がすっかり消え去ったところで箒を納めてお辞儀をすると、沿道といわずあちこちから割れるような拍手が沸き起こった。

「ヒナタ!やったわね!」

みんなも感心して誉め称えるが、真っ赤になったヒナタはそのままそこで固まってしまって動けない。
腕を引きに行こうとサクラが踏み出すより早く、

「すげェ!ヒナタ、すげェってばよ!!」

ナルトが駆け寄り、がっしと抱き締めた。

あのバカ!!!

と、同期とイルカが青ざめる。

「俺にも後でちょーだい!あのクッキー!」

腕を緩めて顔を覗き混んだら、

「やっぱりね…」
「アイツ…考えなしなんだから…」

ヒナタは顔を真っ赤にしたままくったりと気絶してしまっていた。

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