ゆく年くる年
「うへェ…さみー…」
窓から外を見る。
暖房をきかせているのに、窓に近づけばしんしんと冷気が漂って来る。
まもなく日付も変わろうと言うのに、里はいつにない活気に充ち溢れている。
大晦日。
年が変わるというだけで、なんの変わりもなく明日が来るというだけなのに、なぜこんなにも心が騒ぐのだろうか。
「今年も…いろいろあったなァ…」
ベッドの上で胡座をかき、温かな飲み物を口に運びながら、ナルトはベットの枕元に飾られた一枚の写真に手を伸ばした。
「お前に渡すよ」
カカシから渡されたそれには、大きなお腹を抱えたクシナと、そのお腹ごと愛しそうに妻を抱き締めているミナトが写っていた。
「これ…」
言葉を無くしたナルトにカカシが、
「自来也さまに渡して欲しいってオレがミナト先生…四代目様から預かっていたんだけど」
淡々と話す。
渡せる機会が巡ってきたのは、自来也がナルトの様子を見に里へ立ち寄った時だった。
『主ゃあ、変わらんのぅ』
呵々大笑した自来也は、渡された写真をじいっと眺めていたがやがて、
『まだ預かっといてくれ』
とカカシに返したのだ。
『これからナルトと接触する。ひょっとすると修行をつけることになるかもしれん。なにかのはずみで見られたらまずいじゃろ』
そしてまた豪快に笑った。
『ワシの目にはもうしっかと焼き付けたからの。ありがとうよ、カカシ』
そして…
「それきり預かったままだったから…な」
写真を見詰めるナルトの目に涙が滲んだ。
「お前の両親の形見でもあり、自来也さまの形見でもある…。渡しておくよ」
そういって三人の代理だというように頭を撫でてくれた。
いつもなら子供扱いして!と反発したかもしれないが、
「ありがと!カカシ先生!」
ナルトはニカッと笑った。
「オレも写ってるなんて…すげェ嬉しい」
クシナのお腹の辺りをつついてみせたナルトにも、カカシの笑顔の向こうに三人の笑みが重なって見えた。
一人暮らしのナルトが初めて部屋に飾った写真。ヘヘヘと照れ笑いをしながら写真立てを手に取って眺めた。
「今年は!前にも…報告したけど…一応!」
腕を伸ばしてまっすぐ見据えてそこまで言ったが、その後は照れて顔を反らす。
ぐにゃぐにゃとベッドに寝転がり、ニシシ、ニシシ、と笑いが止まらない。
しばらくゴロゴロと転がったあと写真立てを持ったままうつ伏せになり、枕に顔を埋めた。
「………」
黙ったまま足をゆっくりばたつかせていたが、
「今年は!」
ガバッと顔をあげ、写真に向かって怒鳴った。
「カノジョが!」
目をつぶり、頬を染め、
「出来ました〜…」
ふしゅ〜と湯気をたててまた枕に顔を埋めた。
「カノジョ…カノジョかぁ…」
顔を横にするとふにゃふにゃと緩む頬を枕に擦りつける。
「へへ…へへへ…♪」
片手で顔を撫で照れまくる。
ゴロンと仰向けになると、写真をかざし、
「とーちゃんは会ったことがあると思うけど!ヒナタが、オレのカノジョになってくれましたーっ♪」
満面の笑みで報告した。
肘を折って写真を顔の近くに持ってくる。
「ヒナタは大人しい女の子らしい子だから、かーちゃんとも上手くやってくれると思うんだ」
ミナトと同じ笑顔でクシナにも報告する。
「オレの…オレの隣に…ずっとずっと一緒に居てくれるって、約束してくれたんだ…」
ヘヘヘ、と鼻の下をこする。
「だからさ、オレはさ、もうひとりぼっちじゃねェから!心配しなくて大丈夫だぜ!」
身体が浮くほどの大声で宣言した。
ぼぉぉおおん…
除夜の鐘が鳴り始めた。
「おっ!いよいよかぁ!」
もうすぐ年が変わる。
新しい暦に変わる。
「えーと!来年の目標はァ〜」
起き上がりベットの上で胡座をかいてまた写真をかざす。
「ん〜〜〜?」
首を捻りながら段々赤くなる。
「ヒナタと…むにゃむにゃ…♪…いや!まずはちゅーからか!ちゅーだな!うん!」
エヘヘ、取り繕うような笑顔を向けてから、元の位置に写真立てを戻した。
「もちろん!火影への道も目指してる!」
指先でミナトを撫でた。
またひとつ鐘が鳴る。
「やりてェこと以上に、やんなきゃいけねェことのほうが多いかもな…」
タハハと頭を掻く。
「でもやってやるから!見ててくれよな」
写真立てのすぐそばに手を付いて顎を乗せ、ニシシ!と笑った。
鐘は鳴り続ける。
「来年もいい年だぜ…ぜってェ…」
呟いたところで戸を叩く音がした。
「ナルトーっ!二年参り行くぜー!」
「おーっ!今行くってばよ!」
キバの声に返事をしつつ上着を着込んだ。
「じゃあな!とーちゃん、かーちゃん!」
振り返り写真に挨拶すると、同期の男子どもと初詣に行くために家を飛び出した。
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