そう思った瞬間。
息が止まりそうにきつく抱きすくめられていた。
「ヒナタ…」
背後からきゅうぅっと抱き締めながら低い声でナルトが囁く。
「ナ!ナルトくんっ!お、起きて?!?」
慌てふためいて身をよじるヒナタを押さえつけるように更に強く抱き締めながら、ヒナタの肩に顔をつけ、
「ヒナタってば…もォ…」
呻いているのがくすぐったくて恥ずかしくて更に身が縮む。
顔をあげたナルトは力を緩めると、ゆっくりと両手でヒナタの胸の前で組まれた手を包み込んだ。
「心臓…止まるかと思った…」
はぁ…と息を漏らす。
かすかにかかるナルトの吐息も、自分の頬も、包み込まれた自分の手も、包み込むナルトの手も、
何もかもが熱くてたまらない。
「ナルトく…ん」
涙が滲んで唇が震えて声が上ずる。
「ね、寝てるオレにしか甘えないって…どういうことだっ…てばよ…」
ナルトがそうっと自分の頬を、触れないほどに近寄せる。
「あ…だ、だって……そ…それは…」
涙がこぼれ落ちた。
ナルトは片手でヒナタの両手を握り込むと、空いた手を伸ばしてヒナタの身体にまわし、ゆるりと抱き締めた。
「起きてるオレにも甘えて下サイ…」
「そ、それは…」
「イヤか…?」
「そんなこと!」
反射的に強く言い切った勢いで揺らいだ身体は、ゆったりと、しかししっかりとナルトの腕の中に居て。
「良かった…ちょっぴし自信なくしてたんだ…」
すこしうつむいたナルトが低く掠れた声で呟いた。
「…?」
「ヒナタ…そばに寄って来てくんねェから…オレに触れられんのイヤなのかな?…って…」
「!!」
「違ったんだな…良かった…」
そんな…そんな…
こぼれ落ちそうな涙を懸命にこらえようと自分の手を顔に寄せようとすると、ナルトがヒナタの手をつかんだまま自分の指を一度だけヒナタの唇にゆるく当てた。
「ヒナタ…」
「…ナ…ナルトくん…っ…」
「嬉し…ヒナタ…良かった…」
「ナルトくん…」
「嬉しい…ヒナタ…」
ナルトが覗き込んでいるのはわかっているが、わずかに細められた蒼い瞳の輝きが眩しすぎてそちらを向くことが出来ない。
開け放たれた窓から吹き込んできた風が冷たさを含んでいて、反射的に二人ともに窓の外を眺めた。
日がゆっくりと暮れ始めていた。
そのままゆったりと日が落ちてゆくのを眺めたあと、
「…送ってく…」
ナルトが静かに腕をとき、ヒナタの手をやさしく取りながら立ち上がった。
「もう…いいんだよな?…手を…つないでも」
上体を折って、まだ座っているヒナタの顔を覗き込みながら不安げな顔をしてナルトが聞く。
「うん…。ありがとう…ナルトくん…」
泣き出しそうになるのを懸命に笑顔にしようとしてみる。
「こちらこそ…。改めてよろしくだってばよ…ヒナタ…」
ナルトがうやうやしくヒナタの手を取り、立ち上がるのを助ける。
「行こっか」
「はいっ…」
指先だけをわずかに絡ませて、ぎこちなく手をつないで、
二人は、深くなる夜闇の中へと歩み出した。
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