04◆一触即発
オープンな場所や席が好きなキバは、甘栗甘なら入ってすぐの席に陣取って、往来の人を眺めたりからかったり、はたまた前を通りがかっただけの人についてあれこれ勝手な噂話をしてみたり、とにかく見通しのいい席が好きだ。なのでそのキバが壁側に座ることには違和感はないが、それにしてもいつもの入り口正面ではなくやや奥になるここは、随分と外が見えにくいだろうと思われた。
第一当のヒナタが、シノがいつものように斜め前に座っているだけなのにほとんど外が見えないのだ。
シノくんてほんと背が高いよなぁ…などと考えていたところへ、それぞれの注文した品物がやってきた。
「うっまっそー♪頂きまっす!」
ヒナタもシノもキバの盛りだくさんでゴーカな器をちろりとうらめしく見、やっぱりそっちが良かったな…と思いはしたが、それでも好物は好物、結局はそれぞれ自分の頼んだものに舌鼓を打ちはじめた。
「あー!…席…空いてねェ…か?」
急に聞きなれた明るい声が聞こえてヒナタは小さくむせた。
顔見知りが居たなら真っ先に声をあげるキバが何も言わなかったし、ここからは入り口も見えない。
しかし…あの声は…確かにナルト。
「あっれー?キバ!つか、シノ!ヒナタも?八班勢揃いかよ!」
ご機嫌そうな声だと思ったら、その通り満面の笑みのナルトがずんずん近づいて来、
「3人ならいっこ空いてんだろ?座らせてくれってばよ♪」
シノとキバの間の角に立ってにこにこしている。
が…
しかし渋い顔をして返事をしない2人に、首をかしげて2人の顔を交互に見たあと、ヒナタを見て、
「いい?」
とニカッと笑った。
たちまち頬を染めたヒナタが口を開くより早く、
「ああ…」
肘をついてそっぽを向いたキバが低い声で短く言い放ち、シノがしばらく迷うような仕草をしてからヒナタの向かいになる隣の椅子に移った。
「ありがとよ!」
シノが座っていた椅子に座ったナルトは、肘をついたままキバが真正面から睨んでいるし、シノは椅子こそ譲ってくれたものの皿はほとんど動かしておらずびったりくっついているような距離だし、
「な、なんか…すげェ近くね?!」
まごついた。
「そーか?」
ナルトから視線をそらさないまま、ばくん、と食べつつ唸るキバに、
「なんでそんな不機嫌なんだってばよ…」
ぶつぶつ言いながらヒナタに救いを求めるように視線を向けようとすると、
「おっと、すまない」
シノがわざわざ手を伸ばしてキバの脇のお品書きを取ろうとしてそれを遮る。
「…何?オレ、邪魔?秘密の作戦会議でもしてたのかってばよ…」
首をすくめて小さくなりながら上目遣いでキバとシノの様子を伺って聞く。
「まーな」
「そんなようなところだ」
2人の返事に驚くヒナタ。会議どころかまだとりとめもない会話しかしていないというのに。
そこへナルトのお汁粉が届き、
「食ったらすぐ出てくから…それまで勘弁してくれってばよ…」
ナルトは小さくなったままお汁粉をすすりはじめた。
これではいけない、とヒナタがキバとシノに何か言おうと口を開いた瞬間、キバが大きなため息をついてポソリと呟いた。
「おめえが一緒だと目立つからやなんだよ…」
えっ?!と、ナルトより早くヒナタが聞き返しそうになったところへ、
「あー!居た!キバぁ!!」
サクラの声が響いた。
ほらな…うんざりした顔で目を閉じたキバの元へズンズンと歩み寄ってきたサクラが、
「ラーメン代!払って頂戴!」
とキバに手を差し出した。
「サクラちゃん!仕事終わったの?お疲れさん♪」
ナルトがとたんににこにこと嬉しそうな顔になって愛想良くサクラに話しかけるが、サクラはナルトへ、
「ああ、ナルト、ありがと。アンタのお陰でキバがすぐ見つかって助かったわ」
早口でぶっきらぼうにそう言うと再びキバを睨み付ける。
「だから!なんで俺が払わなきゃなんねぇんだっつの!!」
「いーからつべこべ言わず払いなさいよ!」
2人の顔を交互に見ていたナルトが、
「どったの?」
シノにこっそり聞くが、シノは首を振っただけで答えない。
さすがに度重なる態度にナルトもむっとした顔を露わにし、キバとサクラのやり取りを眺めた。
「…なんか知んねェけどよ、ラーメンくらいおごったっていいじゃねェかよ…ケチだな、キバ」
しばらくして少し不機嫌に口出ししたナルトにキバが立ち上がり、
「おめえはかんけーねーんだから黙ってろ!!」
噛みついた。
「かんけーなくねーよ!!」
ナルトも立ち上がる。
「サクラちゃんのことならかんけーなくねーよ!!」
ぎりぎりと睨み合う。
シノは小さくため息をつき、涙ぐみはじめたヒナタへ、
『出よう…』
とそっと促した。
『で、でも…シノくん…』
『とりあえずここは店の一番奥だし厄介だ、今のうちに出よう』
『そ…そうかな…うん…わかった…』
速やかに店の外へ出てみれば、入り口をくぐり損ねたいのが苦笑いをして2人を迎えた。
「さすがにいきなり怒鳴るのはどーかと思うんだけど」
と心配そうに店内をのぞくいのに、
「こうなっては最早収拾つくまい」
シノが呟いたとたん、
「喧嘩なら外でやれよ!」
という他の客の怒号と共に3人も店の外へ出てきた。
往来をゆく人々も、かたや火影候補No.1の最強忍者ナルトと、かたや火影の愛弟子でもはやそれを越えると呼び声も高い最強くの一サクラがいて、誰かがこの2人に逆らっているようだと見れば、どんどん観客が増えていく。
見物客に押されるようにして3人からもいのからも離れてしまいながらも心配して必死に様子を見ようとしているヒナタへ、通りががりの上忍が声をかけようと近づいてきた。が、
「ヒナタ」
それを遮るようにシノが立ちはだかる。
「シノくん?」
見上げたヒナタを庇うように立ったシノは、上忍をじっと見据えながら怒気を滲ませた。
「いや、あの、えっと、あれ、君たちの仲間だよね」
しどろもどろになりながら取り繕う上忍に尚も睨みを効かせながら、
「そうだが…ここからはもう様子も伺えない。気になるならもっと前で見ている人たちに聞くがいい」
と低く告げた。
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