「欲張り欲張りって、みんなだって毎年毎年おんなじこと書いてたわけじゃねェんだろ?」
からかわれすぎてついに口を尖らせてナルトが言うが、みんなはうーん?と考え込んでなかなか返事がない。
「何?!毎年おんなじィ?!」
ナルトは呆れてしまうが、
「なんていうか…叶うまで次の願いって書きにくいっていうか…」
「叶ったかどうか実感あるような願いじゃなかったし〜…」
「だなぁ〜。俺の場合、もっともっと、ってなってたしなぁ〜」
それぞれが歯切れ悪くぼんやりと答えるのでナルトはついに笑いだし、
「んだよ、ソレもなんだか欲張りなんじゃねェの〜?」
本当に楽しそうに笑うので、渋い顔をしていた三人にもつられて笑いだす。
「あー、今日は楽しかった!ありがとね!キバ、おめでと!」
「赤丸もおめでと!今日はありがとうね!」
「おー!こっちこそありがと!いっぱい貰って嬉しかったぜ!」
「…こちらは代わり映えしなくて悪かったな…」
「シ、シノくん…。こちらこそ、み、みんな、ありがとうございました!」
「ははは!ホント、すっげー楽しかった!」
口々に挨拶を交わしながら、ナルトはそっとヒナタに明日の場所と時間を確認し、
「じゃあなー!またなー!」
笑顔でぶんぶんと皆が見えなくなるまで見送ると、くるりと踵を返して自分の部屋へと歩きだした。
先ほどまでの楽しかった時間の反動からなのか、無表情になっているナルトの目の端に、軒先にたまさか飾られた笹とそこに結びつけられたとりどりの短冊がうつる。
木の葉では里の行事としての七夕はないので、子供がいる家が飾る笹くらいしか町中では見られない。
しかし、ナルトたちがアカデミーに通っていた頃は校庭に大きな笹が飾られたし、近所で集まって七夕祭りをやっていたり、短冊を書く機会、飾る機会は今よりも多かった。
短冊は大抵が裏の白い折り紙を切って作る。凝ったものを作りたい子、裕福な家の子は色紙を切って模様を切り抜いたり張りつけたりして作っていたりもしたが、大抵は折り紙で出来た短冊が、ひらひらと色と白とを交互にしながら翻っているのが普通だった。
親代わりとして保護してくれていた三代目火影のヒルゼンに、色紙はおろか折り紙をねだることさえなんとなく憚られたナルトが使える紙といえば、書き付けにでもと渡されていたわら半紙だけ。
そもそもの大きさがまず折り紙サイズではない紙を、一生懸命同じ大きさになるよう切ってみても、表も裏も白いだけの自分の短冊がひどく悲しくて。
わざと汚く書き散らかした願い事といえば、
“とーちゃんがほしい”
“かーちゃんがほしい”
“ともだちがほしい”
誰も書かないような、ほんとうにささいなつまらないことばかり。
“だれかといっしょにごはんたべたい”
“だれかとわらいあいたい”
“だれかにおかえりっていってほしい”
書きなぐるうちに溢れだした願いたちは、
“てをつないでほしい”
“あたまをなでてほしい”
“だきしめてほしい”
“おれをみてほしい”
願いなのか叫びなのか区別がつかなくなり、
読めなくなった文字が綴られたたくさんの短冊に埋もれて声をあげて散々泣いたあと、最後に紡ぎ出された“たったひとつ”が、
“ほかげになる”
だったのだ。
『乗り越えられる…ワケがねェ…』
無表情のまま思うナルトは、先ほどは本気でヒナタをすごいと思い、畏敬の念をもって見守らせてもらいたいと思って立ち会いを希望したというのに、
だんだんとひねくれた気持ちになっていることに気づいていない。
『見ものだ…』
自分の部屋へ着き、鍵をまわしドアをあける。
『きっと火影なるまで…。いや、なったってオレには無理だ』
今日はもう笑顔をつくる元気が尽きていた。