「だァろ?オレってば、けっこうちゃーんと見てるとこ見てんだってばよ♪」
ナルトもシノもキバも、嬉しそうに笑っているが、ヒナタは意味がわからずきょろきょろする。
「あ…あの…あの…?」
「ナルト、ヒナタ意味わかってねぇみてぇだから説明してやれよ」
キバが赤丸を撫でてやりながらナルトにふった。
不安そうな顔で自分のほうを振り向いたヒナタに、ナルトはやさしく微笑みかえしてやる。
「咲いても咲かなくても桜は桜。誰が見てても見てなくっても、やるべきことをきちんとやってる。そんなとこがヒナタみてェだって言ってんだよ」
ヒナタの目から不安の色が消えないことに、ナルトはふっと眉を寄せるが、ふい、と桜を見上げて明るい声を出した。
「こうやってるとめちゃくちゃ華やかそうだけど、花そのものは結構繊細だしよ」
ひら…と舞い落ちてきた花びらを手のひらで受け止める。
「こうして一枚一枚丁寧に散るんだ。最後の一枚まで…きちんと」
花びらを目で追ってそのままナルトの手のひらを覗き込んだヒナタに、ナルトがそっと囁く。
「誰が見てても見てなくても、咲いて散るんだ。誰の上にも等しく。ほんとうにやさしい花だよな…」
ヒナタは、ナルトの手のひらの上の花びらを見つめ続けた。ほぼ白に近いその色が、繊細なふちにかろうじて閉じ込められているさまをいつまでも眺めていたいのに、ただでさえ淡いその色が、じんわりと滲んで見えなくなっていく。
「こんなにやさしく寄り添ってくれるのに、掴もうとしたら簡単に壊れてしまうんだ…」
ナルトがきゅ、と手を握りこむ。ヒナタは思わずあっと声をあげた。ゆっくりとナルトが手を開くと…
花びらは見るも無残にくちゃくちゃになっていた。淡く繊細だったはずの色も褪せた茶色へと変わり果ててしまっている。
「手に入れたくても手に入れられねェ…」
今にも大粒の涙をこぼしそうにうつむいたヒナタの額に、ナルトはそうっと自分の額を寄せる。
「壊したくないから…眺めているしかねェ…」
ふい、とヒナタが顔をあげナルトを見つめる。勢いあまって涙が1つ2つこぼれ落ちたが泣いてはいない。
何か言おうとしてなかなか口に出せずにいるヒナタを、ナルトは淡く微笑んで見守り続ける。
「わ、私は…こんなに…壊れやすくはない…よ?」
「…知ってる。壊れやすそうだけど強えェ。けど…すーぐしょんぼりする…」
「わ…わ…私…は…誰にも…ひとし…く…やさし…いわけ…では…な…い……よ…」
「そう…かなァ…?気づいてねェだけだと思うけど…?」
もう涙をとめることが出来なかった。
かつて諦めた大切なあの花が、まるで自分のようだと言ってくれる人がいる。
自分が感じていたように、あの花はやさしく強いと、言ってくれる人がいる。
い…いいのかな…?私、もう一度…桜は私の味方だっ…て…
桜は私みたいな花だって…
お…思ってもいいの…かな…?
あとからあとからあふれる涙を拭えないまま、ヒナタはすこし首をかしげてナルトを見た。肩越しに見えるキバもシノも、こちらを見て頷いてくれている。
「ほんとに…ヒナタってば…桜の花みてェだ…」
わずかにかすれた声でそう呟いたナルトが、手を伸ばしてヒナタの頬をなでた。
「オレの大好きな花…」
今度はナルトが、泣きそうな顔をして笑った…