「どう…して…?」
うわずって震える声を必死に絞り出してでも、そう聞かずにはおれなかった。
「んー?そうだなあ…」
ナルトはさっぱりと顔をあげてまた桜の花を眺めた。
「オレってばさ、みんなよりアカデミーに長くいただろ?だからここの桜にはみんなより長く馴染んでんだよな」
見上げたまま話すナルトにつられてヒナタも桜を見上げた。桜色の空から絶え間なく花びらが降り注ぎ続け、空は桜にけぶったままだ。
「こうやって花が咲くとさ、みんなが集まってきて近寄れねェんだけど、散ってしまったら誰もここに来ねェんだ」
食べながら聞いていたキバも同じくつられて桜を見上げる。
「だーれも来ねェからさ。よく来たもんだよ。登ったり隠れたり、絶好の遊び場だったな」
あっ…と声をあげそうになるのを必死に思い留まる。ナルトの表情は明るいままだが、けして楽しい思い出ではないことは、すでにみんなが知っている。
「桜はここにちゃんとあるのに。葉っぱも枝もあるってのに。花が咲いてねェってだけで誰も見向きもしねェんだ。おかしなもんだよな」
くっくっく、と目を細めて本当におかしそうに笑う。つられて笑ってみせるが、心の中は穏やかではない。
「だーれも見てねェのにちゃんと葉っぱをつけて、赤くなって散って、冬支度して春に備えて、そんで咲くんだ」
にこっ。ヒナタをまっすぐ見てナルトが笑う。
「まるでヒナタみてェだよ」
「わ…わたし…?」
ナルトの悲しい思い出に寄り添う桜が、さみしそうな自分のようだと言うのだろうか。
ヒナタがまごまごしていると、シノが静かにあとをついだ。
「わかるな。特に、ヒナタの家の桜を見ればより納得がいく」
ああ、とキバもうなずき、
「あの桜ね、あれはそうだな、まじヒナタみてぇだよな」
うん?とナルトが3人を見まわし、
「なんだ?ヒナタんち、桜あんのか?すげェな!」
ヒナタに言うが、
「あ…うちっていうか…日向にっていうか…」
「え?あれ自宅だろ?住んでんだろ?あそこに」
「す、住んでるけど…広間は…普段使ってないし…」
「管理をしているのなら自宅も同然だ」
「そ、そうなのかな…」
3人で普段どおりといった風情で会話を始めてしまうので口を尖らせて黙ってしまう。
「本来桜は静かな佇まいをもつ樹木だ。繊細で傷みやすく、しかし葉にも枝にも効能は多く、虫にとっては…やさしい存在だ」
「シノんちはヒナタんとこの桜、管理手伝ってんだっけ?」
「花の見事さばかりを誉めそやされがちだが、桜の価値は花だけではない」
ふと、シノの頬がゆるむ。
「そこを見抜くとは…ナルト、お前もなかなかやるな」
突然ほめられて一瞬目を見開くが、すぐにナルトは心底嬉しそうに破顔した。