あれから幾年たっただろうか。久しぶりにアカデミーの桜並木を訪れ、むせかえるように咲き誇る桜の花々を見上げて、ヒナタは息を飲んだ。
ここへ来る前に自宅の桜を眺めて来た。あの大木とも坪庭の桜とも違う佇まいのここの桜を、今は心から素直に美しいと思う。しかし、ふいにかつての自分が必死で「知らない桜」と唱え続けていた気持ちがよみがえり、かたくなだった自分の幼稚さを思い出して、ヒナタはひっそりと笑った。
「ヒナタ!早いのね!」
桜色の髪を揺らしてサクラがやってくる。すると決まって桜は、彼女に嬉しそうにまとわりつくかのように花びらを美しく散らすのだ。
「ぅおー!桜だ!満開だぁ!キレイだなぁ〜♪」
その後ろからナルトを始め、みんなが続いている。
「なァ!桜、キレイだよなァ?ヒナタ!」
満面の笑みでヒナタに同意を求めるナルトに、ヒナタも笑顔で応えた。
全員が集まったところで地面に敷物を広げててんでに座り、持ってきた食べ物や飲み物を広げてお花見が始まった。いつもなら真ん中に陣取って誰より賑やかに騒ぎ立てるナルトが、今年は隅っこに座るヒナタの隣に座り、じっと桜を見上げている。持ってきた弁当を広げ終わったヒナタがナルトに声をかけても生返事をするだけで桜から目をはなそうとしない。
「どしたのよー、ナルトー!今さら桜に見とれちゃってるのー?」
向こうからいのがからかう。
「アンタ、ほんっと昔っから“サクラ”が好きよね〜♪」
「んー?ああ…」
『桜だ!サクラちゃんの桜だァ!キレイだよなあ♪サクラちゃーん♪』
幼い頃から決まってそうはしゃいでサクラにまとわりついていたナルトの姿を思い出し、ちくん。とヒナタの胸が痛む。キバとシノがムッと気分を害した気配を露わにするが、いのはもちろん、ナルトも気づかない。だが、
「桜ってさぁ…」
かくん。と首を正面に戻したナルトがヒナタを見、
「なんかヒナタみてェだよな」
とぽつんと言った。