それから。春が巡りくる度に、サクラは咲き誇る桜の下で、初めて会ったときと同じ美しい笑顔を見せてくれた。
みんなで彼女の名前にこと寄せて、桜の盛りに彼女の誕生日を祝ったこともあったが、それだけではなく彼女自身が、「この花は私の花」と強く思っていたようだし、みんなもそれを認めていた。
事実彼女は華やかで、よく耳目を集め、美しさを愛でられ、また人びとから期待をされ、それに応え…「その名の通り桜の花のような女の子」だと、誰もが認めていた。
ヒナタは、しばらく「私の知らない桜」だと、平気だと思おうと努力していたが、
みんなの言う桜、
みんなが思う桜の美しさ、
そしてそれを具現化しているかのような華やかなサクラを目の当たりにし続けるうちに…
桜を諦めてしまっていた。
何より辛かったのは。
密かに慕っていた少年が、桜の少女に恋していると知ったこと。
数少ない自分の味方であった花を取り上げられただけでなく、少年が特別の思いを込めてその花の名を嬉しそうに呼ぶのを見聞きするのは…本当に辛かった。
彼女は誰の目にも愛らしく魅力的だった。それは疑う余地のない事実で、心から納得していた。少年が惹かれるのも無理はなかった。
諦めよう。
あの花に、私は相応しくない。
誰にも等しくやさしい彼女のように、桜は私のような者にもやさしくしてくれていただけなのだ。
いつしか名もない小さな花ばなを、ひっそりと愛でるようになっていた。