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「#幼馴染」のBL小説を読む
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アカデミー入学の日。
それまで一族の者としか接したことのなかったヒナタにはとても気欝な日だった。一族以外の者たちとも引き比べられる日々のはじまりに他ならなかったからだ。誇り高く、それゆえにそれを内部にも外部にも強要しがちな日向一族。一目見てそれとわかる自分を、みなは受け入れてくれるのだろうか…。

不安に押し潰されそうなヒナタを奮い立たせたのは、アカデミーの敷地内に咲くと聞いていた桜。
今なら桜は満開である。
みなが好きで口々に誉めそやす堂々たる我が家の大木でさえ、ヒナタをやさしく包み、花びらを落としてくれる。
桜は私の味方…
ヒナタは早く行って、桜に勇気を分けて貰おうと駆け出した。

「ふわぁ…」

アカデミーの桜は、ヒナタが今まで見たことがないものだった。
背の高い木が幾本も並べて植えられ、互いに絡みあうように伸びた枝にみっしりと花を咲かせて見上げる限りを花の色に染め、絶え間なくはらはらと散る花びらは本当に天から降り注ぐようだ。
庭木の、一本植の桜しか知らなかったヒナタはその光景に酔いしれた。
初めて知る、桜の華やかな姿だった。

教室に入ってからも、ヒナタは窓から見える桜を眺め続けた。知り合い同士が明るく声を掛け合ってはしゃぐ教室で、本当にひとりの知り合いもいなかったのはヒナタだけだった。

桜…こちらに来ないかな…お願い、あなたの花びらを私に頂戴…

ヒナタが念じたその直後、視界がふっと塞がれた。
ヒナタの真横の窓際の席に人が来たのだ。桜が見えない!慌てたヒナタに、すっと差し出された手。
反射的に顔をあげると、
ごぅ…と一陣の風が巻き起こり、たくさんの桜の花びらが渦を作って彼女を彩った。

おんなじ…桜とおんなじ色の…髪…

ヒナタが目を見開いていると、風に乱れた桜色の髪をようやく撫で付けた少女は、桜色によく映える翡翠の瞳で真っ直ぐヒナタを見据え、にこっ、と愛らしく微笑み、

「わたし、春野サクラっていうの!よろしくね!」

再び握手を求めて手をさしのべた。

「さ、桜…ちゃん…」
「うん!あなたは?」
「わ…私…ヒナタ…、日向ヒナタ…です…」
「ヒナタちゃん?これからよろしくね♪」

サクラは快活に笑った。ヒナタが呆然としている間にサクラは余所から呼ばれ、そちらへと賑やかに移動していった。

桜…桜の花の…サクラちゃん…

ヒナタは動揺を隠せなかった。
自分の知らない桜と…それに呼応しているかのような、花のように美しい少女…。

ヒナタは滲んでくる涙をこらえようとひっそりとうつむいた。

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