<* 今年の桜 〜こぞのさくら〜 *>
シノやキバが「まさにヒナタだ」と言った日向の桜を、ようやく観ることがかなった今日。
「これがあ!?すげェな!!」
ナルトが目を見張ったのも無理はない。
広い庭の一番よいところに根をはる桜の古木は、苔むし曲がりくねった体躯を悠々と横たえ、まさに威風堂々。
張り巡らされた見事な枝振り全てに満々と花を湛え、真下から見上げればまるで花だけでつくられた天蓋のよう。
その雄大さ、優雅さに圧倒されるが、ふと、
ヒナタっつーより、ヒアシのおっちゃんみてーかなァ?
ナルトがこっそり首を捻る。
それに気づいているのかいないのか、ヒナタがふふふ、と控え目に笑い、
「すごいと言えばね…」
日向一族の自慢のひとつであるこの桜がかくも美しく咲き誇る時期に、誰もここに立ち入りかなわないとは、
「とても珍しいことなの。みんなこぞって見に来たがるから…」
首をかしげて話すヒナタの肩に、花びらがひらり、と降りかかった。
ヒナタは それをいとおしげに丁寧につまみ上げると、膝においた自分の手のひらにふわ、と乗せ、再びナルトに視線を戻して微笑んだ。
その優雅な仕草に見とれながら、ナルトはつくづくヒナタは美しいなと思う。彼女の美しさは顔かたちよりも、仕草だったり佇まいにこそよく現れている。とくに指先の動きが繊細でなんともいえず、
あの指先が…自分の頬を、あんな風に撫でてくれるのかと思うと自然と顔が赤くなってしまう。
「本家の桜、と言うけれど、日向の桜なの。だから…」
桜を見上げて本当に嬉しそうに微笑んだので、
「貸し切りにしてくれたのはオレのため?…そっか…嬉しいな!」
ナルトも満面の笑みで明るく言った。本家嫡子のヒナタといえど独り占めすることは今までかなわなかったのだろう。しかも本来ならば座敷かせいぜい縁側から観るべきものを、木の下に緋毛氈を敷いてくれて花を下から眺めることが出来るのもさらに異例なことだ。桜がいかに繊細な木か、あのとき以来毎年のようにシノがくどくどと語ってくれるので、それについてはナルトもすぐに気がついた。
「しかも特等席!オレってば、カホーモノってやつだな♪」
ニシシ、と笑うナルトごしには青空ものぞいて、ヒナタはますます微笑んだ。
今日はなんてよい日なのだろう。
天気もよく、風はそよかで、散る花びらのほとんどが2人の近くに降り注ぐ。
「食事は…ここでは出来ないんだけど…ごめんね」
「なぁに言ってんだってばよ!こんないい席で観させてもらえて」
ナルトは一旦言葉を切って桜を見上げる。
「花びら浴びれるなんて…すげェ嬉しいよ」
目を細めて花びらを顔で受けとめようとするかのように顎を突き出す。その様子にヒナタがころころと笑う。
さあぁっと風が巻き起こり、花びらがナルトに降りかかる。風向きはヒナタよりナルトの方角らしい、嬉しそうな顔をしたナルトとは対照的にヒナタが一瞬羨ましそうな顔をした。
すると、ナルトはヒナタの膝に乗せられた手に自分の手をそっと添えた。ヒナタが驚いてナルトの目を見ると、ナルトはにやっと笑い、次の瞬間ヒナタの肩をもう片方の手で思い切り引き寄せた。
「ナ、ナルトくんっ…!」
「いーから♪もうちょっとこっち来いってばよ♪」
「えっ?えっ?」
「ほら!来るぞ!」
また風が巻き起こる。引き寄せられたきりわけがわからず体勢を崩したままのヒナタと、それを支えるナルトの上に、はらはらはらっと花びらが降り注ぐ。
「ちゃんとこっち来ねェと、風向きはこっちだってばよ」
「は、はいっ…!」
ナルトは肩を引き寄せた腕をヒナタの胴へまわし、2人ぴったりと寄り添いあう。
「間に合った!」
次の風から降り落ちてくる花びらを2人で浴びながら、ナルトが声をあげて笑う。
「桜吹雪だ!嬉しいなァ♪」
心底嬉しそうに笑うナルトの顔を、間近から見上げてヒナタも笑う。
それから、
少し体を離して、
2人ゆっくり顔を見合わせる。
ナルトがヒナタの手から自分の手を離し、そのままヒナタの髪についた花びらをそうっと摘まんでヒナタの手のひらに乗せた。
「あ…」
こっそりと花びらを集めていたことがバレていたと知ってヒナタが顔を赤くしながらうつむいた。それを愛おしそうに眺めてからナルトは今度はゆっくりヒナタを引き寄せる。
「俺もさ、ガキの頃からさ、落ちてくるのを待つだけじゃ足んなくて、いっぱいいっぱい一気に花びら浴びてみたくってさ」
くくくっと笑ってヒナタの頭に頬を寄せ、また手のひらに自分の手を添える。
おんなじこと…考えてた…の…?
恥ずかしくって、嬉しくって、目にわずかに涙が滲む。