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花がなければ桜の木の元は快適な場所だった。
誰も寄り付かない場所については里の誰よりも詳しくて、春を過ぎた桜の木はその筆頭だったのだ。
皮が軟らかいから、枝が折れやすいから、けして登るなと何度注意されても、桜の木を傷つけず登るすべなどとっくに身につけていた。
若葉が芽吹き葉を広げていくさまを
高い枝から見下ろす風景を
桜の木はいつも自分にみせてくれていた。
さみしくて泣きそうになった秋は落ち葉の暖かさで
凍えてくじけそうになった冬は凛とした枝姿で
桜の木はいつも自分を励ましてくれていた。
誰よりも親しんでいる自負はあった。

ただ。

ただ…花だけは…手に入らない。

桜の花なんかキライだ。
そう思っても、満開の花の下、降りしきる花びらをまといながらはしゃぐ彼女は、胸が苦しくなるほど美しく
しかし、彼女が居なければ、たったひとり、さみしい気持ちを抱えて沈んでいるときにやってくる花びらを、そっと愛でるしかないのだ。

堂々と満開の花を愛でることを、そのそばに寄ることを許されたころ。
憧れていた花のもとへ、そうっと近寄ってみた。
するすると枝を登り、一番キレイに咲いている花へと近寄り、そうっ…と…手を伸ばすと…

花はたちまち萎れて汚らしい姿になった。

穢らわしいお前などが私に触れるからだ!
そう叱責されたように感じた。

悲しくて悲しくて…人知れず隠れて泣き
日が沈んでからひっそりと帰宅するその肩へ…やはりひらりと花びらが落ちる。
細心の注意をはらってできる限りそうっと持ち帰ったのに
翌朝にはまた萎れて無残な姿になっている。

そんなに…オレが…キライかよ…
そんなに…オレは穢れているって言うのかよ…

もう花なんかどうでもいい。そう思っても、日の光のなか咲き誇る姿を見れば、それを求めて手を伸ばすことをやめられない。
花のただなかに立ち尽くし、思うさま桜吹雪を浴びたいのに
自分だけ避けて降っている気がしてならない。



顔をそむけて、背を向けたときにだけ。
後ろからそぅっとかきいだくように桜が花びらを降らせてくれると知ったのはいつだったか。
見ればその華やかさに目を奪われ心奪われ、たちまち眩暈をおこしても、花はこちらを向いてくれない。
うつむき、悄然と打ちひしがれたときにだけ、はら…はら…と花びらがくる。
明るい気分のときはそこには居ないのに
暗い気分になってしまったときには、そぅっと寄り添ってくれている。

繚乱と咲き誇る桜の花と、花びらを落としてくれる桜は…違う…のではないか…

そう気付いたのは…

いつだった…だろう…か…







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