<* 桜狩人 〜はなかりびと〜 *>
桜の花が嫌いだった。
とってもとってもキレイなのに、そばによって見ることは出来ない。
人が大勢集まる場所は、みんなが嬉しそうにしていればしているほど、近寄ってはいけない場所だった。
桜の花の下ではみんなが笑顔でいる…。
ふつうはどんなににぎやかな場所でも、日が暮れて暗くなれば人は居なくなるものだった。
それから近寄ればいいだけだった。
なのに…桜だけは。咲けばなぜだか夜通し誰かが居る。
花が散るまで
散って、はげて、汚らしくなるまで
近寄ることが出来なかった。
キレイだと思っていたけど、キライな花だった。
花の下で笑えるようになったのは
花と同じ名前を持つ少女と知り合ってから。
その名の通り、花と同じ髪色をした彼女は、花が散ったあと芽吹く若葉とおんなじ色の瞳をしていて
でもそのことに気づくやつは誰も居なくて。
見たこともない鉱石に例えるやつばかりで。
自分だけのトクベツだと思っていた。
彼女と知り合って恋をして
同じ班になって親しくなって
彼女と一緒にいれば、あの花の下に居ることを許された。
とても…嬉しかった。
だけど…
自分自身が認められたわけではない。
夕刻の、夜闇の、桜を眺めたくとも
遅くならないうちに帰宅しなければならない彼女を伴えない時間では、相変わらず桜に寄り付くことは出来なかった。
誰からも見えない場所でうずくまって人が居なくなるのを待っていても。
人の気配が消えることはなく、
結局はうつむいたまま帰宅するしかなかった。
ただ…
桜は…
うずくまっているところへも
うつむいて帰宅しているところへも
ひらひらと花びらを運んでくれた。
それがとても嬉しかったのに。
泣くしか出来ない自分が嫌だった。
素直になれない自分にも…桜はやさしいのに…。
誰にも平等な彼女とはすこし違う、桜の控え目なやさしさが、嬉しいのにいつも涙を誘うのがいつも不思議だった。
桜の花は彼女のようで
美しくて眩しくて、手に入れたいのに
降りしきる花びらのように自分に笑顔を向けてはくれても
この手には届かない。
彼女は、桜の花と一緒で、みんなのもので、
独り占めすることは叶わない存在で
彼女と知り合ってなおひとりで何度も桜を見に行こうとしたのは、手に入らない彼女をどうしても手に入れたかったから。
誰にも邪魔されずにあの花に触れられれば、彼女にも手が届くような気がするのに。
結局は物陰からさみしく眺め、肩を落として帰るしかなかった。
花が見えなくなってから、ひらり…と訪れる、花びらに慰められながら…