前略
高橋先輩、お元気ですか?
先輩が卒業してからは初めて手紙を書くので少し緊張しています。
学校の桜が綺麗に咲き始めました。
もう春が来たのだなとしみじみ感じました。
こうして季節が過ぎていくのですね。
3月27日はお暇でしょうか?
その頃には見頃だと思うので良ければ一緒に花見をしませんか?
その内容を交えて手紙を出したのはつい数日前。
返事は手紙でなくメールで返ってきた。
ただ一言に、「花見しよう!」と。
「おぉーっ!良い感じに咲いてるね」
「そうですね。まだ満開ではないですがこれはこれで綺麗です」
今は花見の時期で人が多そうだからと学校で花見をする事になった。
この時期は学年の入れ替わりで生徒は皆帰省しているし教員は専用の出入り口を使うから人通りも無く花見をするのは丁度良い。
「そういえば喋り方、敬語になったんだね」
「はい。変ですか?」
「ううん。見た目とのギャップはあるかもだけどこっちの方が斎藤君らしいよ」
俺よりも少し高い目線と合うとまるで花が開くような優しい笑みを向けられる。
「らしい」と言われるだけでこんなにも嬉しく感じるなんて。
「あの、誘ってくれてありがとう。俺も斎藤君とサクラ見たいなぁって思ってたから嬉しかった」
「本当…ですか?」
「嘘つくわけないだろー」
拗ねたような口調でも先輩は穏やかに笑う。
貴方がただ笑うだけで俺の心が満たされていく。
丁度風が吹き、桜の花びらが舞い散っていき先輩は桜を見上げた
その瞳は桜で鮮やかに彩られていて、消え入りそうなぐらい小さな声が耳に届いた。
「すっ、げぇ…綺麗…」
口を開けてただ桜に魅了されている姿は去年と全く同じで。
初めて先輩を見掛けた時と変わらない言葉、変わらない瞳にいつの間にか涙が溢れていた。
「え…さ、斎藤君!?どうしたのっ?」
「いえ…あまりにも綺麗だなって」
あの時、貴方に出会えてよかった。
貴方に出会わなければ俺はこんなにも幸せを感じる事が出来なかった。
あんな手紙に返事をくれて有り難うございます。
何度感謝しても足りない。
本当に、有り難う。
「来年も見に来てくれますか?」
「勿論っ。斎藤君が卒業しても見にきちゃおっか」
冗談だ、と悪戯に笑う貴方に魅了されてそっと寄り添い桜を見上げた。
貴方は気付いていない俺達の本当の始まりの季節。
来年も隣に居て下さいね。
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