この腐りきった世の中が許せなかった。
人間のエゴで殺された者を、人間のエゴで蘇らせて兵器にする。
そんな連中が許せなかった。
どれだけ厳重なセキュリティも俺には通用しない。
人は細心の注意を払えば払う程無防備になる。その無防備さを狙われているとも知らないで。実に滑稽だ。
俺はその僅かな隙を掻い潜っていくつもの研究所を潰してきた。だが、潰しても潰しても埒が明かない。
そんな事は解ってる。それでも、俺は虱潰しに潰していくしかないんだ。
「よし、ここだな…」
目的のメインコンピュータールームへと辿り着いた。
此処のコンピューターに作っておいたウイルスを送り込めばこの研究所は機能しなくなる。
一番奥のメインコンピューターの心臓部分へと足を進めていると、目を奪われた。
溶液で満たされたカプセルの中にいる対レジスタンス用軍事兵器型ヒューマロイド、別名コードR。俺が潰したい蘇生研究成功の産物。
そのコードRは本当に元は俺と同じ人間なのかが怪しいぐらいに綺麗な顔立ちと均等の取れた体つきをしている。
これほど美しい人間が存在し兵器として新たな生命を与えられたのか。
メインコンピューターに向かっていた筈の足はいつの間にかそいつのカプセルの方へと歩んでいた。
そいつは見れば見る程綺麗な顔立ちをしている。
俺は兵器と化したコードRの蘇生を阻止しなくてはならないのに、コードRであるこいつの瞳が見たくなった。
閉じられた瞳はどんな色をしているのだろう。
お前は、どんな声をしているんだ?
そう思ってカプセルに触れた瞬間、男は瞼を上げた。
溶液の色で褪せない程、綺麗で深い蒼の瞳。
俺は暫く、男を見つめていた。
──緊急指令、侵入者ヲ抹殺セヨ──
男の瞳に夢中になっている間にセキュリティの異常に気付かれたらしい。
俺とした事がっ…一旦引き上げるしかない。
踵を返したその時、凛と通る声が聞こえた。
『何処二、行ク』
あまりにも近くで聞こえ驚いて振り向いた先にはこちらを見据えるコードR。
蒼い瞳が、俺を映す。
『何処ニ、行ク』
答えない俺にもう一度男は尋ねた。
カプセルの中で男は俺に手を伸ばしたように見えた。
そうだよな。
折角取り戻したその命、テメェの為に使えば良い。
拳を振り上げて渾身の力でカプセルを叩き割る。
中から溶液が溢れて濡れるのも気にせず、俺は男に歩み寄り手を取った。
「外の世界だ。お前も連れていってやる」
近くにあった適当な白衣を羽織らせて俺達は走り出した。
それがコイツ、レイとの始まり。
fin.
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