「崇高な手のひら」より



 着膨れした体は、少々屈むのさえ億劫だ。襟巻きを巻かれながら、俺は手渡された手袋を装着する。
「はは。ならば俺が手を引いてやろう」
「子供じゃあるまいし、大丈夫だって」
「俺からみれば、君はまだまだ小さな幼子さ」
「そりゃあ、鶴丸みたいに長生きのじいさんからみればそうだろうさ」
「お、拗ねたか?」
「拗ねてない!」
「はははっ。悪かったよ。機嫌を直しておくれ」
 鶴丸はまるで聞き分けのない子に言い聞かせるように言って、やさしく笑う。そして俺の右手をそっと握った。
「……仕方ないなぁ」
 俺は鶴丸のこの顔に弱い。儚い容貌に反して快活に笑うことの多い彼の、静かな微笑みが。


 じわじわと這い上がってくる雪の冷たさと冷気によってくしゃみが出るまで後数分。鶴丸が慌てて退いて俺を抱き上げるまで後数分。


 それから少しして鶴丸は頭を上げると、俺の上から退いた。手を伸せばぱしりと掴み返されて俺は難なく起こされる。
 相変わらず分からないことだらけだったけれど、とりあえずこれだけは聞いておきたかった。
「すっきりしたか?」
 鶴丸は罰が悪そうな、それでいてどこか満ち足りたような表情を浮かべて微笑った。
「ああ。お陰様で」


「すっかり着物が濡れちゃったなあ。今日の洗濯当番は確か……」
「国広組だな」
「堀川かあ……『もう主さんに鶴丸さんは、余計な洗い物増やして!』って叱られそう……」
「ああ……」
「おおう、叱られ慣れている鶴丸でさえ目が虚ろだ。……説教こわい」


 お酒を飲むと笑い上戸になる打刀が吹き出した。
『ぶふっ』
『あっまた笑った。もー何回目だよ』
 疲れねえか? 普段笑わない分明日は腹筋が筋肉痛かもね。と、吹き出した山姥切を見て獅子王と蜂須賀が言い合う。

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