驚く顔を拝んだのは、正直言ってこれが初めてだ。そんなシチュエーションに出会う確立などそもそもからして低いというのに、運というのはつくづく訳が分からないものである。いや、もしかしたらリンネと遭遇したあの時から何かがらりと変わってしまったのやもしれない。だってそうじゃなきゃ、セトと触れ合うことが始めからして存在しないはずだ。
妙な感慨に耽けたのは、目ん玉を大きく大きく見開く無防備な姿を晒されてこちらもどうしたらいいか分からなくなったから。
じんじんと鈍い痛みが響く後頭部を気にしていられる余裕もなく、ただお互いに沈黙の中見つめ合うという奇妙な一時。セトの体を支えるために床につかれた手は、自分の顔を挟み込むようにして置いてあった。
こんな風景をついこの間も見たことがあるような気がする。確か、リンネとバティスタがいつの間にか持ち込んでいた少女漫画に。ヒロインはちょうど今の自分と同じような感じに押し倒され、慌てふためく様子が描写されていて――
「せ、と」
小さく唇から零れた声音は、自分でも予想外なほど戸惑いと緊張を隠しきれずにいた。僅かな息遣いがすぐそこに迫っていて何故か焦る。どいてくれと一言言えば済む話なのに、それさえもままならない。今にも飛び出してしまいそうな心臓の鼓動音は聞かれてしまっていないだろうか、そんなどうでもいいことばかり気になる。
倒されたフローリングの冷たさが沸騰しそうな自分の体温を嫌に伝えてきて、どうにかなりそうだった。


こんなにちかい
(:20131217)
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