誰に起こされたわけでもないのに、自然と目が覚めてしまった。ふと壁にかけてある時計に視線をやれば、まだ明け方の5時だという。もったいない気がして、もう一度安眠を貪ろうと思ったけれど、はっと横にあったはずの温もりがいつの間にかどこかへと消えてしまっているのを見て、無意識のうちに駆け出していた。
焦る心臓を抱えて外に飛び出す、遠くの方でポッポが慌てたように飛び立っていった。そんなこと構いもしないで、目を凝らせばなんとか見えるという距離に、人影を発見する。あれだ、と加速する足はもう止まらない。汗がじっとりと、背中をつたった。そんな不快感だって、横をすり抜ける風に煽られて忘れてしまう。
「グリーン、さんっ」
服の裾をぐっと掴んで引き寄せて、ようやく戻ってきた体温に肩の荷が下りる。押し寄せてきた安堵感に深く深く溜め息を吐いた。
「びっくりしました、起きたらいなくて」
「ああ、悪い悪い」
「…ちっとも悪いと思ってないっすね、それ」
特に気にしたようでもない声から判断するに、意図してやったことではないということだけは分かった。しかし自分だってこんなに早くに起きてしまったのに、彼はそれよりも早くに目を覚ましてしまったのか。二人揃って一体全体どうしたことか、そう考えると可笑しくなってきて、はははと乾いた笑い声が漏れる。
「うわっ、お前汗だくだくじゃねえか」
「走り、ましたから」
「おいおい大丈夫かよ…」
疲れという概念がようやく追いついて、体が途端に重くなる。当たり前だ、寝起きの完全でない状態で全力疾走させられれば誰だったこうなる。情けないことにへなへなとその場に座り込んでしまった。
「びびったー………」
「焦り過ぎだ、ばーか」
前髪を掻き分けられて、額に噴き出した汗を拭われる。早朝の風のおかげでひんやりとした感覚が伝わった。
「…どれくらい寝れました?」
「ん?」
「あの後、」
少し遠まわしに、多分彼にも伝わるだろうと思って聞いてみた。自分も数年前よりかは落ち着きが出てきたもののまだまだ若い故、はっちゃけて無理をさせてないかなどと不安だったのだ。何が、と聞くのは無粋というやつだろう。
「まあまあ。だからこうやって爺臭く早起きなんてしちまったんだろうし」
「ひっでえ…俺まだ17ですよ17」
「誰もお前のこととは言ってねえぜ?」
「起きちまったんですから一緒ですよ」
違いねえわ、と慣れた笑みを向けられて、心臓がまたばくばくと煩く仕事し始める。向こうの方に出てきたばかりの太陽が見えて、眩しげに目を細める。縁を淡く照らされた彼の横顔がまたなんだか昨夜のことをリアルに思い出させて、ちょっと気が気でなかったりした。
「もうちょっと寝ましょうか」
「そうだな、まだ流石に眠いわ」
「どうせグリーンさんも一日オフだから、昼間で寝てても誰も文句言いやしませんよね」
「わっかんねえぜ?突然レッドが押しかけてくるとかそういう可能性も…」
「…あんたがいうと冗談に聞こえないんで本当やめてください」
「すまんすまん」
穏やかな惰眠を貪るためだけに動く足は軽い。さてはてしかしこのまま大人しく寝付けるのかと言われれば、それは後でのお楽しみということで。


(:20110721)
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