※ちょっと過去のお話


「好きです」
酷く震えていたような気がする。
「…青天の霹靂って、まさにこのことだねぇ」
「自分でも自覚してます」
「どういう風の吹き回し?」
「俺にもさっぱり」
「帝人くんや杏里ちゃんはどうするのさ」
「あとでなんとかしますよ」
「随分と悠長なお考えをお持ちなようで」
「最優先事項はアンタだってことに気がついたんです」
拐われてしまう前にさらってしまいたかった、本音はそんなところだ。あまりにも周りに敵が多すぎたのだ。ちょっと焦りすぎたかな、と後悔しそうにもなるが、早くて悪いことは多分ないだろうとも思う。
それに今から駆け足で関係を取り持って、自分の気持ちの深いところまで余すことなく伝えていく時間を長めに取ったって、ばちはあたらない、そう考えたのだ。
「安直すぎるかな」
「自分に素直なだけです」
「もし断られたら、とかそういう心配は一切ないの?」
「必ずしもない、と自信満々に言えるわけではないですけどね」
「へぇ」
「でも思ったら即行動、早い者勝ちって言うじゃないっすか」
「まあ、正論だね」
嘘だ、そんな格好のいい理由ばかりあるわけではない。誰かに先を越されてしまうのは、とてつもなく怖かったから。自分でない他人が、折原臨也という人間の側に立つことが、どうやっても腹立たしくしか思えなかったから。
いつか爆発しそうなものを、自分の中に溜め込んでおくのが怖かったから。
なんとも子供らしい理由が並んで、逃げ場がなくなってしまったが故。浅はかで愚直なのは昔から変わっていない。
「なるほど、じゃあ君は君の人生を、この折原臨也っていうロクデナシに売り払う覚悟は既に出来てるんだ」
「まあ、」
「なんか小説みたいだねぇ、嫌いだった人間に惚れちゃうなんてさ」
「…単にからかってるだけじゃ、ないですよね」
「…よく分かってるね」
それまでの、あやふやで訳の分からない空気が一変した。
「嘘つき」
蛇に睨まれたような、そんな感覚。
「自己満足なのに、それを口に出して言えないだなんて昔っから変わらないね、君だけは」
「…分かってるならなんで話を伸ばしたんですか」
「別に結論が決まってたわけじゃないよ、俺だって考えるところはある」
白々しく笑う表情から何もかも、出会ったあの頃から変わらない。
「好き、って言われて、ありがとう、って返せた昔とは違うんだよ」
「人間、愛してるんじゃないんでしたっけ」
「揚げ足取りはよくないよ?」
「よくやられたんで、仕返しです」
「あー…」
「いつかは返されること、予想してやってたんじゃないんですか」
「そのいつかは絶対来ないって予想してたから」
「………」
「来る前に、ここからいなくなるつもりでいたから」
衝撃の告白、とまではいかなかったのは、なんとなく予想ができていたからだろうか。ふらふらと、音もなく消えてしまいそうな雰囲気は、確かに臭っていた。本にも、恐らく無意識のうちに。
だからそれを踏まえて、いう。
「好きです」
逃げるなと、言いたげに。
「…卑怯だなあ」
「なんとでも」
「ずるい」
「はい」
「狡猾」
「まあ、そうですね」
「…どうしたらいいかな」
滅多に聞けない、弱音だった。
「好きになってくださいよ」
「…なんかなあ」
「不服ですか、俺は」
「そうじゃないんだけど」
「酷いって言われてもやめませんからね」
「泣いても?」
「………」
「決意、揺らいじゃうかな」
「…卑怯なのはどっちですか」
「まあ、五分五分って感じだね」
大人はだから嫌いなんだ、だから早く追い付きたくて、必死に走っているというのに。
「ここまでされると、もうどうしようもなくなって来るし、とりあえず不束者ですがってことでいい?」
「とりあえずってなんですか、とりあえずって」
「それは傲慢だよ正臣くん」
「誰のせいだ」
最後まで憎まれ口だったのは、もう癖なのでしょうがないと諦めた。


(:20110619)
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