「紫陽花?」
綺麗だったので、プレゼントしてみた。
「近所のおばちゃんがくれたんですよ」
「…ああ、田中さんか」
「はい」
「へぇ」
「今年は大分綺麗に色づいてるからって」
「まあ、確かに」
「こないだ出掛けた先で見たやつも、なかなか綺麗でしたし」
「今年は機嫌がいいのかな?」
「かもしれません」
青と紫の絶妙なコントラストで彩られた紫陽花は、臨也さんのなかなか容易には掴めないそんな雰囲気によく似合った。
花一つにこんなに映える人はいないと、目を見張る。
「…何?」
「あ、いや…似合ってるなあ、と思って」
「なにそれ、ご機嫌取り?」
くすくすと小さく小さく漏れる笑みも相まって、同性とは思えない空気が漂う。そもそもこの人をちゃんと生物学上の“男”として見たことなど、片手で数えられるぐらいしかないかもしれない。
「花瓶あったっけ?」
「買いに行きますか」
「ついでに夕飯の買い物もしよう。珍しく一日オフだしね」
「働きすぎなんですよ、臨也さん」
「働かなきゃ生活できないし」
「養ってもらうのはなあ…」
「君だって仕事はあるでしょう」
「桁が違います」
「ああ、それはそうかも」
「否定しないあたり、臨也さんらしいですよ…」
「事実だし、ねぇ」
せっかく成人して、一歩彼に近づけたというのに、社会的経験値の観点から言うと足元にも及ばないひよっこな自分。追い抜く、なんてことは多分無理。諦めも半分あるが、悔しいのもまた事実。だから子供なのだと諭されることもしばしば。
「まあいいじゃん。共働きって実は一番関係が壊れやすいんだよ?上手くいってるだけ、ましってことにしようよ」
「はい…」
「元気ないなあ」
「すいません…」
「気味悪いよ正臣くん」
「気遣いって言葉をそろそろ学んでください臨也さん」
「ああ、それ一生無理だから。諦めてねー」
「愛が痛い…」
結局あほみたいなやり取りに戻ってきてしまうわけだが、この人と俺のパワーバランスというものは、つまるところこれが一番似合っているのでもう何も言わない。
紫陽花からぽたり、朝露が滴った。


(:20110619)
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -