「誕生日、ですか」
不意に後ろから聞かれた。
「うん」
「…誕生日、ねぇ」
「去年何やったっけ」
「えらい愛情のこもったケーキを、」
「やっぱいい。なんでもない喋んないで」
気まずそうに顔を背けられたが、心無しか頬が赤く染まっている。隠そうと頑張ってはいるものの、次第に耳まで赤くなってきているので無駄な努力というもので。可愛い、この一言につきる。
惚気のつもりは毛頭ない。
「何かしてくれるんすか?」
「…ものによる、かな」
「えー」
「ぶーたれても無理なものは無理だよ」
「ここはほら一つ俺への日頃のデレを大放出しても…」
「やらないからね」
「ちっ」
事はそう上手くいかないものだ、不条理に舌打ちした。
「あのさあ、もういい大人なんだから君も」
「まだまだガキですよ。無駄に図体でかいだけですって」
「…なんかむかつく」
「昔は臨也さんの方がでかかったですもんねー」
差と言ってもほんの2、3センチのものでしかないのだが、明らかに昔感じていた劣等感は消えた。成長による恩恵はきちんとあったようだ。
密かに当時の自分の栄養事情に感謝する、あの時は伸ばそうととにかく必死だったものだ。
「で、無理じゃない範囲でなら頑張るんだけど、いいの?」
「うーん…、と言ってもなかなか思い付かないんですよねえ、多すぎて」
「悔い改めた方がいいんじゃない」
「いいじゃないっすか、好きなんだから」
「…恥ずかしげもなくさらっと言えるようになったよね、正臣くん」
「成長したんですよ」
笑って返して、再び考える。これといって今やって欲しいというものが無いのが、実のところ本音だったりする。それはこれから時間をかけてゆっくり分かち合いたいという、まあこれまたなんとも恥ずかしいどこか痒くなるような理由があったりなかったりするので、今はまだ言わないでおく。
となると本当に一つも浮かんでこなくて、それもそれでなんだかなあと思う葛藤。だがベタなのはちょっと物足りない気もする。
「うーむ」
「急かしてるわけじゃないから、今思い付かないなら別にいいんだけど…」
「いや、なんかもったいないんで今絞り出します」
「あっそう…」
物好きな奴だなという視線で見られているような気もするが気にしない。
「あ、」
「え?」
「臨也さん」
「うん?」
「婚姻届でも書きましょうか」
「はい?」
「出さないですけど」
「当たり前だよ」
「そしたらほら、夫婦になれるじゃないっすか」
「…何が言いたいの?」
「一日だけでいいんで、新婚みたいに過ごしてみたいです。もちろん、俺が旦那役で」
「それはまた…」
「駄目ですかね?」
「…今聞くのは卑怯だと思う」
「まあ、嫌って言わせないためですから」
「いい性格してきたよねえ」
「臨也さんとだてに長くいないですからね」
「小恥ずかしい」
「返事は?」
「………」
またもや顔を逸らされた。いい加減慣れてくれないかなあ、とも思うのだが、いちいち恥ずかしそうに照れる姿もこれはこれでなかなかいけるのでよしとしよう。
「…やってやらない」
「やってやらない?」
「………ことも、ない…」
「言質取りましたからね」
「分かってるよ…」
「げっそりしないでくださいよー」
「…逞しく育ちすぎだよ正臣くん」
「だいたいアンタのせいなことには、変わりはないですね」
「ちょっかいの出し方間違えたかな…」
遠い目をしていたが、まあ要求は叶ったので知ったこっちゃない。


(:20110619)
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