Act.10



随分前に松平さんに会った事がある。

そりゃもう攘夷志士が恐れるのも分かる。すごく威圧があって迫力があってなんかとりあえず怖かった。

でも女の子大好きみたいでものすごく可愛がられた。札束だってくれた。これで生活には困ってません。


「まつだいらさーん」


だからそのお礼を兼ねて遊びに来たんです。松平さん家に。


「よォ〜はるちゃんじゃあねぇか」


そしたらゆったりと間延びした声がお出迎えしてくれた。


「前のお礼をしにきました!」

「礼なんていらねぇよ」

「いやいやほんとに助かってます!ありがとうございました!」

「っかー!はるちゃんはイイコだなぁ〜」

「そんなことないですよ!」

「謙遜しなくていいんだよォはるちゃん」


ってね、こんな感じでものすごくよくしてくれる。


「とっつぁん、あんまりこいつを甘やかさねぇでくれ」

「なんだ土方ァ、俺に楯突くのかァ?」

「んな事言ってねーだろうが」

「口の聞き方がなってねぇじゃあ、ねぇか」

「だーもう!だから嫌だったんだよ!帰るぞ、はる」

「えー」

「えーじゃねぇ早く車乗れ」


まだ遊びたかったのに、とかおもいながら仕方なく車に乗った。

それから窓を開けて松平さんにもう一度だけ礼を言って手を振った。


「ねー土方さんは松平さん嫌いなの?」

「はぁ?なんだよ藪なら棒に」

「いや、だってさ、」

「…別に嫌いじゃねーよ」

「そうなの?」

「ああ。寧ろ尊敬してる」

「まじか!」

「あのジジィは女と酒に酔ってやがるクソジジィだがな。あいつを嫌ってんのは攘夷志士ぐらいだ」

「そうなの?」

「みんな嫌な顔しながらもジジィの言った事には従うだろ。嫌いなやつの命令なんざ誰が聞くってんだ」

「へー、じゃあ松平さんはみんなに好かれてるんだ、」

「…なんでかわかるか?」

「ほ?」

「なんであんな横暴で自分勝手なジジィが好かれてるか分かるか?」

「んー…なんで?」

「…誰よりも1番平和を願ってんのがあのジジィだからだ。この街守るためなら自分の命だって捨てるぜ、あのジジィは」


誇らしげにそう語る土方さんに何だかあたしまで嬉しくなった。



Act.10 なんだかんだ凄い人
(松平さん好きになったわ)
(そら良かった)

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