1
昨日は一睡も出来なかったな。そんな呑気な事を考えながら広間に足を運んだ。
「近藤さんおはよ」
「ああ、はるちゃんおはよう!」
「皆はまだ寝てるの?」
「いや、トシはそこの縁側に居るはずだぞ。総悟はミツバ殿の部屋だな」
「お姉ちゃん、目さましたの?」
「ああ、昨日の深夜な。」
「そっか。じゃあ今日は兄上、つきっきりだね」
「だな」
悪戯っぽくニカッと笑う近藤さんにあたしも同じように笑い返す。
それからあたしもお姉ちゃんの部屋に行く事にした。決めたんだ、もう嘘はつかない。
「お姉ちゃん」
「はる」
「おはよ」
「おはよう」
相変わらず怖いくらいに真っ白なお姉ちゃんにゴクリと息を飲む。
あと少しだから、頑張ってね。
「あのね、今日はお姉ちゃんに言わなきゃいけない事が二つあるの」
「なあに?」
手術のことは、昨日兄上と近藤さんと話をしてあたしから言うことになった。
「お姉ちゃんの病気を治せる病院をみつけたの。」
「えぇ!?」
お姉ちゃんはこれでもかってぐらい目を見開いた。そりゃそうなるよね。
「でもそれには手術が必要でね、勝手に決めちゃったんだけど明日、手術を受ける事になってるの」
「…ありがとう。嬉しいわ」
ふわりふわり、微笑むお姉ちゃんの姿を見て嬉しくなった。
だけど、あと一つ言わなきゃいけない事がある。言いたくない、なぁ。兄上きっと怒るだろうなあ。
あたしの横でお姉ちゃんと笑い合う兄上を見て、少しおびんだ。
でも、言わなきゃいけない気がするの。
「…あと、一つはね」
「ん?」
「………あたし、土方さんと付き合ってる」
言い切ったあと、案の定お姉ちゃんは目を見開いた。どこか、悲しそうに。
そんな顔見たくない、見たくないよ。言ってから、凄く後悔した。
「そ、そう」
そう言いながらまた微笑むお姉ちゃんを見て、どうしようもない罪悪感に見舞われた。
そして更に、咳き込んでしまった。
「ゴホッゴホッ…ッケホッ」
「姉上!!!はるてめぇなんのつもりでィ!!」
思いっきり、胸ぐらを掴まれて後ろの壁にぶつかった。
「そうちゃんっゴホッ…やめ、て…ケホッゴホッ…」
「おめぇは何がしたいんでィ!土方さんに好かれる姉上が羨ましかったか?」
ぎりぎり、拳に力が入ってるのが見てわかる。
「お前はいつも姉上を傷つける。姉上が何したってんでィ!」
「っごめん、ごめんなさ、い」
「謝罪なんか聞きたくねえ」
そこまで言うと兄上は手を離して力なく俯いた。そして、呟いたんだ。
「お前が病気になればよかったんでィ」
目の前が真っ暗になった。はやくこの部屋から出なきゃ、泣いてしまうからはやく、はやく出なきゃ。
足早に部屋を出たらそこには土方さんがいて、たぶん、話全部聞いてたんだと思う。だって土方さんの目が冷たいもの。お姉ちゃんを傷つけたあたしを軽蔑してるんだ。
「も、もう近づかない、近づかないか、ら、ごめ、ん、あたしが、あたし、が、」
死ぬから
許して
← | top | →