▼08
あー学校行きたくないなあ。治るまでずっと休んでたい。でもそういうわけにもいかないしマネージャーの仕事だって足りてないみたいだし。渋々体を起こして準備を済ませて家を出た。朝練には間に合わせなくちゃいけないから早足で。
「あ、はるおはよ」
『おはよう』
わたしより先に来ていたお姉ちゃんが昨日干したらしいビブスを籠に取り込みながら声を掛けてくれた。おはよう、おつかれ、ありがとう、とかよく使う言葉は使い回しが出来る様に前持って書いてある。それでもやはり声が出ないというのはめんどくさい。
「大丈夫?」
『大丈夫』
ちなみにこの大丈夫、も昨日のものをそのまま使い回しているもの。何度も何度も同じ事を聞いてくる姉ちゃんの対応にも困ったものです。心配そうにわたしを見てくる姉ちゃんを横目にビブスの取り込みを手伝っていたら背後から声をかけられた。
「麻弥ちゃん、はるちゃん、おはよ」
「さつきちゃんおはよ」
『おはようございます』
使い回しの小さなメモ帳を見せたら案の定桃井先輩が驚いたように目を見開いて、心配そうに顔を歪めた。
「はるちゃんどうしたの!?声でないの!?」
『はい』
「え、ど、どうして?大丈夫?もう二度とでないの?」
『大丈夫です。二度と出ないわけではなくて数週間で治るそうです』
「そ、そうなの?よかったぁ」
安心したように胸に手を当ててほっ、と息を吐く桃井先輩に何だか申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「声が出なくなった原因とかは?」
「ストレスや心的外傷らしいの。テストも近かったしそのせいかなとは思うんだけど…うちのお母さん厳しいから」
声のでない私の代わりにお姉ちゃんが答えてくれた。それがどれほどに助かることか。ペンで書くのと言葉にするのとでは説明するのも難しくなってくるし時間もかかるからかなり辛い。
「そっか…。無理しないでね?」
『はい、ありがとうございます』
自分の事じゃないのに自分の事かのように悲しんでくれる桃井先輩に心温まった。
「麻弥っち、はるちゃん、おはよ」
「黄瀬くんおはよ」
今度は黄瀬先輩から声がかかって、振り向いたら黄瀬先輩の他にもメンバーが揃ってるみたいだった。でもなんとなく、声が出ないとばれたくなくてぺこり、と頭を下げるだけした。
「はるさん?」
それにいち早く反応したのは黒子先輩で、怪訝そうにわたしの顔を覗き込んできた。風邪ですか?と問われ首を横に振ったら黒子先輩が黙り込んだ。
「はる、言いたくないとは思うけど言わなきゃいけないよ」
「…」
「…はる、声が出なくなっちゃって、」
お姉ちゃんがそう告げると青峰先輩がは?と声を上げた。みんなの視線がわたしにうつされて、なんだか気まずくなって俯いた。
「すぐ治る病気なんだけどね、失声症っていう病気」
「失声症…」
「確か精神的苦痛やストレスからくるものなのだよ」
「精神的苦痛、ってはるちゃん、」
『色々重なって疲れただけです。気にしないでください。』
ボールペンを滑らせて書いた文字を見せたらみんなは納得できない、とでも言うのか、何とも不満そうな顔をわたしに向けてきた。
「はるさん」
「?」
「少し、時間頂けますか」
そう言われ頷いたら黒子先輩がでは、お願いしますと言って体育館を出た。それに続いてわたしも体育館を出た。
病気になった途端に友達増える
(汚いね、だいきらい)
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