▼07
訳がわからなかった。最初はただの風邪か、と気にもしなかったがどうも様子がおかしい。
「はー、はーーーっ、」
声を出そうにもはーっ、と息を吐く様な音しか出てこない。ただ声が枯れているだけにしては酷すぎる。怖くなった。これでもしかしたら一生声が出なくなってしまうんじゃないかと。
「はる?どうしたの?」
「…………」
声が出ないんじゃどうしようもない。紙に声が出ない、と書いてお姉ちゃんに見せたらお姉ちゃんは風邪と思ったのかおデコに手を添えた。
「熱は無いみたいだけど」
『喉の問題じゃなくて、声そのものが出ないの』
「え?ちょ、っとまってはる本気?」
『本気』
文面では冷静を装うものの本当は怖くて怖くてたまらない。それを見兼ねたお姉ちゃんがあたしを抱きしめてくれた。
「はる、大丈夫だから、一旦病院行こ。お母さん今日仕事だからあたしが連れてくよ」
『ありがとう』
「ううん、ちょ、ってまっててね準備してくるから」
お姉ちゃんもお姉ちゃんであたしに気を使って冷静を装うものだからなんだか申し訳なくなった。
それから数分経ってあたしもお姉ちゃんも準備が出来た。
「行こっか」
車は無いからタクシーを呼んでタクシーで病院まで行った。
「大丈夫?」
『大丈夫』
お姉ちゃんは車でも病院でも大丈夫?ってあたしの事を気にかけてくれるもんだからあたしは大丈夫と書いた紙を使いまわした。
病院で分かった結果は【失声症】だということ。ストレスや心的外傷が原因で声を発することができなくなるらしい。心当たりがあるかと言われたがお姉ちゃんが隣に居て心配かけたくないのもあり心当たりはない、と答えた。
そうすると医者はストレスと判断したらしくお姉ちゃんもテスト近かったから勉強で疲れてたんだ、で納得してくれた。治療期間は一週間程で治る事が多いらしい。ただ重症患者で1年にまで長引いた例があるから侮ってはいけない、という。
「帰ろっか」
入院する必要も無いらしく薬を貰ってから病院を出た。治療法は服薬、カウンセリング、発生訓練、だという。だから入院する必要は無くても週2〜3の病院通いになる。
「でも良かった。治る病気で」
『そうだね』
「うん。あ、さつきちゃん1人じゃ大変だしあたしお昼はバスケ部のマネージャーに行くけどはるどうする?」
『今日は休みたい』
「そっか。でもお母さん家帰ってると思うから大丈夫」
『分かった』
正直なところお母さんが居ない方が良かった。誰かが隣にいると話しなきゃいけないし紙に書くのは思った以上にめんどくさい。
「あ、ついたよ」
言葉と紙で会話をしているうちにどうやら家についたみたい。駐車場にはお母さんの車があったから居る。
「お母さんただいま〜」
ドアを開けたらお母さんがすごい勢いで走って来た。
「はる大丈夫なの!?」
『大丈夫だよ』
「大丈夫じゃないじゃない!声が出ないの?大丈夫?ご飯は食べれる?」
いつもはあたしに無関心なお母さんがあたしの心配をしてくれる事が不謹慎にもとても嬉しかった。小さい頃を思い出して懐かしく思えた。
「お母さん大丈夫だよ。そんな重い病気じゃないみたい。ご飯は食べれるし1週間ぐらいで治るって」
「そ、そう。心配させないでよ…」
へなへなと崩れ落ちるお母さんを慌てて支えたらお母さんは優しく笑って抱きしめてくれた。今日はよく抱きしめられるな。
こんなに幸せならずっと声が出なくてもいいかもしれない。
声を失った
(だけど何かが見えた)
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