▼05


人は追い込まれるとリストカット、というものをするみたいだがあたしはしない。理由は簡単。血が怖いからだ。昔から少しの血でも泣くような子だったって聞いたことがある。そんなあたしがリストカットなんか出来るかって言ったら無理な話で。


「はる、貴女はなんで何も出来ないの」


今回のテストの点数は悪かったわけでは無い。ただお姉ちゃんがあたしより高かったんだ。そしたらお母さんがいつものごとくあたしを罵る。お母さんの言葉には悪意がある。見て取れる程に。

だってこの点数は本当に悪くないしお姉ちゃんも一度だけこの点数をとったことがある。だけどその時はよくやったわね、ってお姉ちゃんの事褒めてたじゃん。


「次から、気をつける」


そう返すしか無いあたしは自分にも家族にも嫌気がさした。昨日の青峰先輩と黄瀬先輩の事もあって精神的にボロボロだ。本当に死んでしまいたい。そして話は冒頭に戻る。リストカットなんかあたしには到底無理。

気分転換に外に出たら外は真っ暗で少し肌寒かった。だけど家に戻りたくも無いので少しウロウロする事にした。


「お姉さん」


人通りのない中道をフラフラしてたら突然声をかけられた。フードを被ったいかにもな人。だけど吸い込まれるようにその人に歩み寄ったら明らかに危ない人だという事がわかった。

フードの中から時折見える派手な色の髪の毛。腕や喉元、フードから覗く顔には、複数の刺繍のあとがあった。


「お姉さん、悩んでるならさ、これに頼ってみなよ」


そう言ってお兄さんは針と糸をあたしの目の前に掲げた。


「それは?」
「これでこうやって、肌を縫うんだよ」


チクチクと腕を縫って行くその様はとてもじゃないけど見て居られないものだった。痛くないのかな、痛いよね。


「痛くないよ。やってみな」
「ええ、っと…」


突然そんな事を言われたって当然無理な訳で。戸惑っていたらお兄さんがあたしの手をとった。だけどなんだか魅了されるソレに手を引く事はしなかった。

今度はチクチクとあたしの腕を縫うお兄さん。不思議と痛さはあまり感じられない。快感にすら感じた。


「これ、ボディステッチっていうんだ。はい、出来たよ」


そう言ってお兄さんがあたしの腕を離した。そこには赤色の糸で花が描かれていた。


「それね、」


言いながら腕を差し出して来たお兄さんの腕に目を向けたら同じ花が描かれていた。


「僕とお揃い」


お兄さんが顔を上げたと同時にフードがパサリと取れた。

街灯に照らされた色素の薄い金髪によく似合うお人形みたいに中性的で綺麗な顔をしたお兄さん、だった。だけどその顔には刺繍のあとがあまりにもありすぎた。


「あらら。身バレしちゃった。」


無邪気に笑うお兄さんはたぶんあたしとそう年が変わらないはず。


「あの、い、言いませんから!」
「そう?ありがとう。」
「また、会えますか?」
「君の腕の花が消えない限りはたぶんまた会えると思っていいよ」
「っはい!」


初めてあたしを見られた気がして嬉しかった。恋とは違う、憧れとも違う、なんとも表現し難い気持ちがあった。だからまたあの人と会えたらいいな、って思った。


「それじゃあ、またね」
「はい、また」


それからお兄さんは暗闇の中に消えてった。



ボディステッチ
(不思議なお兄さんだったなあ)



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オリキャラでました。
このオリキャラは東京喰種という漫画のジューゾーくんがモデルです。



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