∴女は怖いよ




ちーちゃんはモテる。顔も良いしスタイルも良いし性格は歪んでるけど根はいい人だし。


それを知ってか知らずか毎日ちーちゃんには女の子が寄って来る。大抵は相手にしないけどね。

だけど今日は不思議な光景を目にした。生徒会室に入っていくちーちゃんと、綺麗な女の人。


『…龍ちゃん今のちーちゃんだったよね?』

「そうだ、な」


…少しずつ生徒会室に近付き、中の様子を伺う。そしてそこで目にしたのがこれまた驚く光景。

ちーちゃんの膝にはさっきの女の人。めんどくさいからAさんとしよう。


ちーちゃんの膝の上はあたしの特等席だって思ってたのはあたしだけだったのか。


『………』

「…大丈夫か?」



ちーちゃん達がソレをしたのは龍ちゃんの声が発せられたのとほぼ同時だった。


『…ッ』


たまらず生徒会室のドアを開けたらちーちゃんが目を見開いた。


「はる」

『ちーちゃんが膝に乗せるのはあたしだけだと思ってた。』

「…誰?」


Aさんが明らかに怪訝そうな顔をしてあたしを見た。負けじとあたしも睨み返す。

でもどうもあたしの涙腺は緩いらしい。頬に涙が伝った。


『…ぁたしの方がッ』

「は?」

『あたしの方がちーちゃんの事知ってるもん!あなたはちーちゃんの何を知ってるの?!』

「何言ってんの?私の方が知ってるに決まってるじゃない。もうずっと、千景の事を想ってたのよ?」

『あたしだって小さい頃からずっとすきだった!あたしの方がちーちゃんの事すきだよ!』

「…千景、何この子」

「何でもない。コイツには俺から言っておくから気にするな。」


ちーちゃんは、この人を選ぶのか。ずっと一緒に居たあたしより、この人なんだ。


『ちーちゃん』

「大体あなたちーちゃんちーちゃんって千景の何なの?」

『…幼なじみだよ。あなたよりずっとずっと昔から一緒だった』


終わりそうにないあたし達の言い合いにちーちゃんがAさんにやめろ、と一言言った。あたしもあたしで龍ちゃんに押さえられた。


『ちーちゃんなんて、だいっきらい』

「…はる、行くぞ」


龍ちゃんに連れられて生徒会室を出たら、天霧さんが居た。


『ごめんね、天霧さん』

「いえ。」


天霧さんは優しいから、何も言わずに頭を撫でてくれた。


あたしさっき、何て言ったっけ。
"だいっきらい"

何てよく言えたものだなあたし。本当は大好きなのに。あたしがちーちゃん嫌いな訳がない。


嫌いになれる訳が無いんだ。


『龍ちゃん、あたしねちーちゃんとは小さい頃からずっと一緒であたしは十数年片想い。龍ちゃん、あたしって汚いね。』

「…何でそう思うんだよ。」

『幼なじみっていう関係を利用してたの。ちーちゃんに女の子が近付かないように、ずっと隣に居た。卑怯で汚いやり方でしょ?あたしみたいにちーちゃんの事が好きな人はいっぱい居るのに。』

「んな事ねーよ。俺は、その、一途で良いと、思う。」


照れながらもそう言ってくれる龍ちゃん。


『ふふ、ありがとう。』

「いや、うん。」

『…あたし、ちーちゃん諦めるよ。』

「は?マジかよ」

『うん。すぐには無理だけど、他にいい人見つけるよ。ちーちゃんなんて、好きになんなきゃ良かったら。』

「……ならさ、」

『ん?』

「お、俺ならお前の扱いには慣れてるしさ、その、」


…龍ちゃんの言いたい事が分かった気がして、少し顔に熱が集まるのが自分でも分かった。


「風間を好きなままで、いーからさ」

『いや、ああああたしなんかでよろしくて?』

「俺は、その、お前がす、すきだから言ってんだ、よ」

『でも今のあたしなんかと付き合ってもロクな事無いよ?あたしきっと龍ちゃんのこと利用しちゃうかもしれないよ?』

「別に、いいよ」

『…えと、』



はて。どうするかあたし。




(…どうしよ。)
(心が弱ってるあたしにはかなり効いた)
(でも頭の中はちーちゃんとAさんのキスシーン)



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