調査兵団に勧誘するエルヴィン団長の声を耳にしっかりと入れた。


「この惨状を知った上で、自分の命を賭してもやると、いう者はこの場に残ってくれ。」


そう言って話を切った団長の顔は団長を物語るには充分なものだった。

隣にいた兵士も、そのまた隣にいた兵士もまえも後ろもスカスカになった。その中であたしはぐっと拳を握った。


「…はる、戻るなら今だぞ」

「ジャンこそ、足が浮いてるよ」

「…るせぇ」

「あたしは、残る」

「んな顔してまで残る必要ねえよ」

「残るったら残るの」

「お前なんか居たって役にたたねぇよ。はやく行け」


キッとジャンを睨んでやればジャンは必死に余裕な顔を作ってあたしを見た。


「……お前には、死んでほしくねぇんだよ…っ」


そんな事言われたって、あたしはもう決めたんだよ、ジャン。あたしは人のために命を捨てる準備はできてるんだよ。


「ジャン大丈夫だから。あたし絶対死なないから」

「…」


ジャンが口を開いて何かを言いかけたとき、エルヴィン団長の声が聞こえた。


「君達は、死ねと言われたら死ねるのか」


間を作らず死にたくありません、と答えが聞こえた。そうだ、誰だって死にたくない。

遂に決まってしまったんだ。調査兵団に入る事が。後戻りは出来ない。もう無理なんだ。団長が勇敢な兵士だ、と少し頬を緩めた。

それから団長は言った。


「心臓を捧げよ!」


その言葉を合図に胸に手をあてるみんな。絶望の色に染まった皆の顔。

涙が出てくるのを必死に堪えて唇を噛み締めた。涙を流すのはこれで最後にする。

泣いてる暇なんかない。闘うしかないんだ。闘って、死ぬのが運命ならその運命に従うしかない。


弱いあたしはきっと生きられるわけもないのに嘘をついた。



だいじょうぶ
(お前は絶対死なせねぇ)
(ジャンは絶対に死なせない)