これはどうしたものか。

目の前に立つ男は確実に一歩一歩、あたしに近寄ってくる。面識は無い。本当に全く、知らない人だ。

どうしよう怖い。だって明らかに危ない人じゃん。息荒いもん。なんか汗臭いもん。助けて誰か。


「あ、あの、どちらさまでしょう、か、」
「ボクはいつも君を見ていたよ」
「え、えぇっと、」
「どうしてキミはボクのものにならないんだ!」
「ヒィィ!」


その人がズイッと一気に間を埋めたときにその人の後ろに見慣れた赤色が見えた。


「あ、あ、赤司くん!」


あたしの声が届いたらしく赤司くんは足を止めてこっちに顔を向けていた。


「た、たす、けて」


赤司くんの存在を気にもせずあたしにぐいぐいと詰め寄るその人を必死に押しながら赤司くんが来るのを待った。それなのに赤司くんは急ぐでもなく至って普通に、のうのうと歩いてきた。ちょっとでもいいから急いで!


「…君、」
「な、なんだ!」


ようやく赤司くんの存在を気にし始めたその人は怯えたように振り返った。


「はるに用があるのか?」
「そ、そそうだ!」
「そうか。ではその用とやらがどのようなものか聞かせ願おうか」
「お前には関係ない!」
「…まぁ、それも一理あるが、」


赤司くんがそこで間をおいて一歩、近付いた。


「学校の風紀を乱すのはやめて貰いたいものだな」


それからあたしはどうやってか赤司くんの背後に隠されるようにして立たされていた。


「っはるちゃんに!ふ、触れるな!」
「それはこっちの台詞だよ」

男の人は赤司くんがあたしの腕を取ったことが気に食わなかったのか赤司くんに怒鳴り散らした。だけど赤司くんもそれをものともせず淡々と言葉を返した。


「君のクラス名前は調べればすぐに分かるが、どうする?」
「…っクソ」


男の人は悔しそうに声を吐いて走り去って行った。


「あ、赤司くん、ありがとう」
「ああ、無事でなによりだ。」


少しだけ笑ってそう言った赤司くんに何だか何かが崩れ落ちた気がした。え、うそなにこれ。心臓バクバク言ってる。


「あれ、そういえば赤司くんそれはこっちの台詞だよ、ってどういう、」


そう言ったら赤司くんは更に目を細めた。



そのままの意味だよ
(あ、落ちた)