「ごめんね」


世界は残酷だって、ミカサが言ってた。確かにその通りだ。目の前で血だらけになってポツリポツリと言葉を吐く今にも死にそうなはるに涙が堪えられたい。だからはるには調査兵団にはきてもらいたくなかったんだ。

はるとは1番仲が良くて小さい頃からずっと一緒だった。そんな彼女が今にも消えてしまいそうで目の前が真っ暗になって頭の中は真っ白になった。

もうはるにサシャ、って名前を呼んでもらえない。もうはるに怒られない。笑い合えない。お話出来ない。触れられない。そんなのは絶対に嫌だ。


「悪い冗談は、やめてくださいよ、はる」
「あは、ごめん、」
「嫌ですよ、そんなの」
「サシャ」
「何、ですか」
「人類のために命を捧げると誓ったの。だからこうして死ねるのは本望だよ」
「死ぬなんて、嫌です、っ」


どうしてはるが笑っていられるのかは分かる。はるは、強いから。でもたまにその強さが恨めしい。はるは泣かないんじゃない、泣けないんだ。守ってばかりで守られる事を知らないはるは泣く事は弱い事だと思ってるんだ。


「泣かないでよ、サシャ」
「死なないって、言ったじゃないですかあっ、ぅ、」
「サシャ」
「いかないで、くだ、さいよ、」
「サシャ」


頬がはるの手に包まれた。その手を握ったら更に涙が出た。はるの手が冷たい。嫌でも死という現実が頭に浮かんだ。

バカなあたしはそれでも認められなくてはるの温もりを確かめようと抱きしめた。だけどやっぱり温かさなんか無くて、ひんやりと冷たい。


「はる、はる…っ、」
「サシャ、聞いて」
「っう、」
「あたしは長くない。サシャに言いたい事は、たくさんある。でもそれはまた今度話せばいいよ」
「なに、いってるんですか、」


はるが死んだらまた話すなんて、出来ないに決まってる。少しの間があって、はるは荒い息を深呼吸して落ち着かせた。それから色を薄くした唇を開いた。


「またね、サシャ」


低体温に寄り添う
(絶対また会いましょう)