▼ 土方十四郎
『トシー、』
「なんだ」
『別れよ』
そう言うとトシは吸っていた煙草を落として、新聞からあたしに視線をうつした。
「悪ぃ、よく聞こえなかった。」
『だから、別れよう』
「…オメェが本当に望むなら無理には引き止めねぇ。だがよォ、理由を説明してくれねぇか?」
流石、大人の対応だ。とか思いながら惚れ惚れしてると不思議そうに顔を覗かれた。
おっと危ない危ない、嘘がバレるとこだったな。
『と、トシのそういうやけに大人びたところが嫌い、だからです』
「なんでだよ」
『お父さんみたいでうるさい』
「…」
とっさに吐いた嘘に目を丸くするトシ。あたしも自分で言って驚いた。
あたしトシの大人びたところが好きなのに。何言っちゃってんだよあてくし。
「わかった、じゃあ必要以上に何も聞かねぇから考え直せねぇか?」
『分かった。0秒時間ちょうだい。…はい決まったー』
そう言うとトシがこいつバカか?と言うような顔で見てきた。
『トシ、今日の日付見てごらん』
「日付?」
ゴソゴソとポケットを漁って携帯を出したトシは、携帯を開くなり瞳孔がいつもよりさらに開いた。怖いよ。
「エイプリル、フール」
『んふふ』
「お前なぁ…」
大きくため息を吐いたトシに抱きついて、
『ほんとは大好き』
って言ったらトシがあたしの頭を撫でてくれた。
「はる」
いつになく優しいトシの声に、顔を上げたらトシの顔がすごく近くにあって、あたしが驚いてる間にトシはあたしの唇に自分のそれをくっつけた。
「はる、愛してる」
『クサッ』
「うるせぇよ」
時計の針は12時ぴったり
(エイプリルフールは午前中で終わり)
prev / next