▼ 神威にあげる
「はあああどうしようりっちゃんりっちゃんたすけてりっちゃーん」
「ああもううるさいさっさと行けよ」
「つめたいりっちゃんもかわいい!」
りっちゃんがはあ、ってため息をついた。かわいい。りっちゃんってなんでこんなにかわいいのかな。あたしもこんなに可愛かったら自信持って神威先輩にチョコレート渡せたのに。
「いいからさっさと渡してきなって」
「りっちゃんが行って」
「それじゃ意味が違うでしょうがバカ」
「だってあたし可愛くないし神威先輩があたしの存在を知っていたらそれはもう奇跡の中の奇跡ですよ」
息もしないで言い切ったからちょっと苦しかったからはあはあと息を整えた。
「あんた気付いてないけどたぶん指五本に入るぐらいには人気だよ」
「そんなわけないじゃん!!!ちなみにりっちゃんは指一本に入る人気だよ!!」
「はいはいありがと。はやく行かなきゃ神威先輩待たせちゃうよ。」
「それはだめ!行ってくる!」
神威先輩待たせちゃうなんてあたし何様だよばか!ばか!はやく行かなきゃ!
「がんばって」
くっそう!りっちゃんかわいい!りっちゃんかわいい!あたしはいい友達を持ったよ。
りっちゃんの声援を背中に教室を出た。あー緊張するーこわいよこわいよ。屋上に登る階段をゆっくりゆっくり登りながら手の中の紙袋を握りしめる。あ、くしゃくしゃになっちゃう。
「あ、来た」
「か、神威せんぱ、待たせちゃってすみません」
「うん、大丈夫。」
はあかっこいい優しい大好き。きっとたくさん待ってくれただろうに笑顔で大丈夫って許せる神威先輩の寛大な心に惚れ直しつつ本題に入ろうか。
「で、どうしたの」
「あ、いや、大したことじゃないんですけど…えーっと、」
「?」
ああどうしよう何から話そうどうしようどうしよう。ストレートが1番だよねでも神威先輩わたしのこと知らないだろうし自己紹介?いやいやいやそれはないよ。もういい当たって砕ける!!!
「あ、あの、わたし、学園祭の時に、ダンボール持って、それで転んじゃって、そしたら神威先輩が声掛けてくれてそのうえ持ってくださって、そのときにその、ときに、あの、あ、あああああああの!!」
「落ち着いて」
かっこいい!神威先輩かっこいい!ちくしょう!好きって!チョコ渡すんだわたし!
「……すき、です。あと、これ、チョコレート買ったやつですけど…」
「ありがとう。でもごめんね」
「あ、いえ、お付き合いして頂きたいとかそんな、大それたことは、望んでませんの、で、」
フられるってのは分かってたけどいざとなれば切ないし悲しいし辛いし泣きそう。でも泣くなわたし。神威先輩の前では泣いちゃだめ。
「あんたのこと全然知らないからさ」
「ご、ごめんなさい」
「そうじゃなくて。あんたの事、全然知らないから教えてよ」
「え!?」
「ほら自己紹介」
「え、あ、えええ!?」
神威先輩なんかおかしいよ。絶対おかしいって。だってわたしフられたわけでしょ?なんで自己紹介?
「名前は?」
「前田はる、です」
「はるね。覚えとく」
「え、あの神威先輩、それって期待しても、いいってことでしょうか?」
「さあ?まあチョコは有難く受け取っておくね」
そう言って歩いて行った神威先輩の背中をほう然と見つめていたら神威先輩が振り返った。
「またね、はる」
かっこいい先輩
(世界で一番かっこいい!)
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