『山崎さん』

「あ、はるさん。こんにちは」

『こんにちは。お仕事中ですか?』

「うん、見回り中」


人の良さそうな笑顔を浮かべた山崎さん。山崎さんもまた、あたしの秘密を知る一人。

しかし知る前と何も変わらない。


『お疲れ様です。…あ、そうだ』


買い物帰りだったものだから袋にいちごオレがあったのを思い出す。銀ちゃんにあげるためだったけど、いっぱいあるし一つぐらいいいよね。


『いちごオレ、大丈夫ですか?』

「え?あ、はい」

『じゃあこれ、』

「いや、そんな悪いよ」

『いっぱい買ったから大丈夫。銀ちゃんには秘密ね』

「…うん、ありがとう」


いちごオレを受け取った山崎さんは近くのベンチに腰掛けた。

はるさんもどうぞ、と促されたのであたしも隣に座った。


「あの、はるさん」

『?』

「……もう家に、帰らないん、ですか?」

『…帰りますよ。』


言いにくそうに尋ねてきた山崎さん。あたしが帰るよ、と言えば少し寂しそうに眉を下げた。

あたしにもこれ程の友達が出来たんだな、と思うと嬉しくなる。


『出来ることなら、帰りたくないです。でもきっと、このままこうしていられる訳もないの。』

「どうして?」

『あたしの予想が合ってれば追っ手が来る。』

「そっか。そうだよね。大手財閥ともなれば使用人とかそういうの、居るよね」

『うん』

「…ごめんね、変な事聞いた」

『大丈夫』


少しだけ嫌な事を思い出したあたしが不覚にも顔を歪めると、山崎さんが少し慌てて謝った。


「俺、話ならいくらでも聞けるから、何でも話してよ」

『…っありがと、』

「え!?なんか悪いこと言いました!?すみませんほんとすみません!」


山崎さん、あたしそういう優しさが大っ嫌い。あたし、そういう優しさに弱いから。


『山崎さんっ、あた、しそういう優しさっいらない』

「…」

『その優しさに触れたら、嬉しくて、だけどッ悲しくて、』

「…はるさん」

『一緒に…っ居たいのに、って』

「…それは優しさが嫌い、なんじゃないよきっと」

『…』

「俺もよく分からない、けどその感情が何なのか分からなくてムカムカしてるだけじゃない?」

『そ、なのかな?』

「うん。そういう時はね、」


そこまで言って山崎さんが立ち上がった。

何かと、顔を上げてみれば、頭をくしゃり、撫でられた。そして絡まる視線の中、山崎さんがニコッと笑った。


「その優しさに甘えたらいいんだよ」

『やま、ざきさっ…ん』

「会えなくなる事なんてないから」

『…っ、それは無理、だよ』

「無理じゃないよ」

『だってあたし、一回帰ったらもう、外に出れない』


嗚咽混じりに、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で山崎さんを見つめる。


「俺が、…俺等が、外に連れ出すよ」


そう言ってあたしの頬の涙を拭う山崎さん。

こういう優しさには…甘えればいいんだっけ。


『…待ってますから、ね』

「うん」


そんなの無理だって事知ってるよ。きっと連れ出せないよ、普通。でも大丈夫。



山崎さんの言う"俺等"はきっと普通じゃない人達。



(小さな希望が出来ました)



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