「銀さん、またきてますよ」

「あ?家賃か?クソババァか?どうでもいい、追っ払え」

「いや、違います。はるちゃんです」

「…追っ払え」

「遅いです、銀さん。もう入ってきてますよ」

『銀ちゃんおはよ』

「おはようじゃねぇよ。こんな朝っぱらから何の用?銀さん疲れてるんですけど」

『おはよ』

「……はぁ」


銀さんと会話が成り立っていないこの少女が前田はる。

数ヶ月前にこの街に引っ越してきたらしい女の子。神楽ちゃんや僕の一つ上。

容姿はあまり神楽ちゃんと変わらないけど綺麗な人。

そのはるちゃんはこの万事屋によく来る、所謂常連さん。お金だっていくらでも出す。でも銀さんははるちゃんの依頼だけは絶対に聞かない。


その依頼と言うのも、"ここに住まわせて"というもの。そりゃあ勿論断る訳だ。

しかしそれでも諦めずに毎日毎日この家に来る。


『銀ちゃん、住まわせてよ』

「だーかーら、ダメです」

『どうしても?』

「どうしても」

『絶対?』

「絶対」

『お金ならいっぱいあるよ?』

「いらねぇよ」


あの銀さんが金要らないって言ってるんだから余程無理なのだろう。

別にはるさんの事が嫌いな訳じゃない。寧ろ僕も神楽ちゃんもはるちゃんが好きなぐらいだ。

でも銀さんはどうしても無理らしい。


『銀ちゃんあたしのこと嫌いなの?』

「誰もんな事言ってねーだろ。此処にはもう既に1人と1匹、居んの。それにお前は母ちゃんが心配すんだろ。神楽は両親共に遠いの」

『…両親、ね。』

「なんだよ」

『ううん、なんでもない。じゃああたし今日はもう帰るね』

「ああ帰った帰った」


玄関に向かって歩き出したはるさんの横顔が少し悲しげに見えた。見えただけ、だけどね。


『新八くん、ごめんね。また明日』

「あ、いえ。お待ちしてます」

「お待ちしなくていいから」


そう言った銀さんにはるちゃんは一言文句を言ってから日傘をさして出て行った。



どうもあの悲しげな顔が引っ掛かる。



(はる来てたアルか!?)
(うん、来てたよ)
(起こせよ新八ィィィ!こんなんだからお前は新一じゃなくて新八ネ!)
(こんなんってなんだよ!)



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