「さかたせんせ」
「おーまだいたのか」


何冊か重なった教科書を立てて教卓でトントンと整える坂田先生が一瞬だけこっちに目を向けた。あー相変わらずかっこいいなあとか思いながら先生を見つめてたら視線に気付いた先生がふっ、と笑った。だからかっこいいんだってばばかやろう。


「国語、わからないところあるんですけど」
「あー?ちゃんと授業聞けよなー」


大袈裟なぐらいにため息をついた先生が再び座ってからさっき整えた教科書のなかから国語を引っ張り出した。


「で、どこがわかんねーんだ」
「えっと、あ、ここ」
「あー、ここは、」


丁寧に説明してくれる先生の話を聞きながらも目は先生の綺麗な指ばかりを追ってしまう。


「俺の指じゃなくて教科書見ろ教科書」
「んー」
「やる気あんのかよ」
「話はちゃんと聞いてるもーん」
「へーへー。んじゃそろそろ帰れ」
「うん、帰る」


筆記用具を鞄に適当に突っ込んだ。その時にチラッと見えた物にそういえば、と考えてそれを先生に渡した。


「おまえ、これ、」
「ごめんなさい」


この前先生が寝てる時に取った指輪。ただの嫉妬心で先生の大切なものを取ってしまったのはすごく反省してる。だから今こうして返すんだ。好きだけど、大好きだけどあたしには手の届かない人だから。


「あたし先生がすき」


だからもう全部壊しちゃえ。


「だからもう、優しくしないで、名前で呼ばないで、触れないで笑いかけないで期待、させないで、ください、」
「…はる」
「話、聞いてましたか」
「はる、勘違いだ、それ」


…は?勘違い?なにが?結婚指輪して勘違い?意味わからない。


「その指輪、お前の友達から」
「え」
「あいつが、『坂田は女にだらしなさそうだからはるっていう先約が居る事を見せつけられるなにか目印がないと』って」
「うそ、だ」
「言ったろ、卒業式まで待ってろって」
「だってあれはその場しのぎじゃ、」
「んなわけねーだろ」


あーあたしはいい友達を持ったなあと思ったら嬉しくてなんか泣けてきた。


「泣くなよ」


親指で涙を拭って、優しく口付けてくれる先生が、大好きです。



放課後の教室で
(坂田先生とキス)



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